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●聖路加Common Diseaseカンファレンス

第3回

あなたは全身倦怠感の鑑別を的確にできますか?

西崎祐史(聖路加国際病院内科チーフレジデント)
田中まゆみ(聖路加国際病院一般内科)


全身倦怠感の診断

 まずここを押さえよう

(1)全身倦怠感の鑑別をするうえで重要なのは,Review of systemsによる系統的な問診である。
(2)全身倦怠感の鑑別では,急性の場合は感染症が最も多く,慢性の場合は心因性(不安やうつ状態)が最も多い。
(3)見逃してはいけない疾患に,悪性腫瘍・慢性感染症(結核,心内膜炎,骨髄炎など)・膠原病・内分泌疾患・肝疾患・腎疾患などがある。体重減少を伴う場合は,特に慎重に鑑別する。

■症例1
  手指振戦を伴う全身倦怠感を主訴に来院した72歳女性

指導医 症例は2001年に痔核手術歴,胆石手術歴あり,2002年変形性膝関節症で人工関節置換術の既往のある72歳女性です。外来受診の2~3カ月前より,食欲不振となり,体重減少が認められ,うつ状態として加療され,改善していました。来院当日は,いつにもまして朝方の全身倦怠感が著明であり心配になり,予約日の前日でしたが,外来を受診されました。

 まず,どのような問診をしますか?」

研修医A どんな薬を内服していますか? などを聞きたいです。

指導医 処方に関しては,抗うつ薬のSSRIが処方されています。内服薬に関しても問診していったほうがよいのですが,全身倦怠感を主訴に来院した場合に,見逃していけない疾患には,悪性腫瘍・慢性感染症・膠原病・内分泌疾患・肝疾患・腎疾患などがあります。それらを頭に入れて,問診していくとよいでしょう。

研修医A そうですね,慢性の経過のなかで,全身倦怠感に加えて,体重減少もあります。悪性疾患は考えます。

指導医 では,どのように問診を続けますか?

研修医B リンパ節腫脹の有無とか,呼吸器症状がないかなどを追加で聞いていきます。

指導医 悪性疾患をターゲットにすると,そのような問診が続きますね。でも,それだけだと見逃してしまう可能性がでてきます。そこで,Review of systemsによる問診をすることで,見逃しを防ぎます。

 具体的には,1188ページの資料1のようにします。この患者さんに行ったReview of systemsの結果は次のようになりました(表1)。

資料1 Review of systems
I. 全身状態
・全般的に健康状態はいかがですか?
・発熱,悪寒・寝汗:熱や寒気や寝汗はありますか?
・最近体重が変化しましたか? どのくらいの期間で何kg増え(減り)ましたか? 何かダイエットを実行していますか?
・食欲は良好ですか?
・よく眠れますか? すぐ眠れますか? 寝つきが悪いことはありませんか? 途中で目が覚めることがありますか? 眠りが浅いですか? 熟睡感はありますか? 目が覚めたときにまだ疲れが取れないですか?
II. 頭部・中枢神経系
・転んで頭に怪我をしたことはありませんか? どうして転んだのですか?
・頭痛はありませんか?
・めまいはありませんか? くらくらして倒れそうになる「脳貧血」のようなめまいでしたか? 部屋がぐるぐる回っているような,目が回っているようなめまいでしたか?
・気を失ったり気を失いそうになったことはありませんか? そのとき,実際に意識を失いましたか? 何分間ぐらい? 倒れましたか? 怪我はありませんでしたか?
・よく見えますか? 視力に問題はありませんか? 物がぼやけたり二重に見えたりしたことは?
・耳はよく聞こえますか? 不便はありませんか?
・歯に問題はありませんか? 飲み込みにくかったり,むせたりしませんか?
III. リンパ系
・リンパ節が腫れたり痛んだりしますか?
IV. 乳房
・乳房で気になることはありませんか? しこりはありませんか? 乳首や乳房の皮膚からの分泌物はありませんか?
V. 呼吸器系
・息切れはありませんか? 平らな道だとどのくらいの距離で息切れしますか? 階段は苦ではありませんか?
・ゼイゼイいうことはありますか?
・咳や痰がよく出ますか? どのくらい前から? どんなときによく出ますか? どんな色ですか? 血は混じっていますか? 咳をすると痛みますか?
VI. 心臓・血管系
・動悸がしたり脈が乱れたりしますか?
・胸が痛んだり圧迫感を感じたりますか? 押されるような感じは?
・普通に平らに眠れますか? 枕をいくつぐらい使いますか? 寝ていて突然息苦しくなることはありませんか?
VII. 消化器系
・胃が痛むことは? もたれたり張ったりした感じは? 胃がむかむかしたり,消化不良を感じることは? げっぷは? 胸焼けは? 胃酸が逆流してくるように感じることは?
・吐き気や嘔吐はありますか? 吐いたものは? コーヒーのような色でしたか? 血は混じっていましたか?
・下痢や便秘はありますか? 便通は規則正しいですか? 便の色や形は? 黒っぽいことやタールのようなことはありませんか? 最近,便が細くなったり,便秘と下痢が代わるがわる来たりということはありませんか?
・痔はありませんか? 痒かったり痛かったりしませんか? 出血は?
・ヘルニアがありますか?
・目の玉や皮膚が黄色くなったことはありませんか?
VIII. 腎・尿路系
・尿をするときに痛みや焼けるような感じはしませんか?
・しょっちゅう尿が出て困りますか? 夜の間に何回ぐらい排尿のために起きますか?
・尿に血が混じっていたり紅茶のような濃い色のことは? 膿が混じっていたことは?
・尿の始めがなかなか出ないことはありませんか? 尿に勢いがなくちょろちょろしか出ないと感じますか? 尿の最後が滴って切れが悪いと感じますか? 残尿感がありますか?
・尿をもらしたことはありますか? どんなときに? 急に尿意を催して間に合わずに? 咳をしたりくしゃみをしたときに?
IX. 女性性器
・おりもの(腟からの分泌物)に異常がありますか?  
・月経は規則正しいですか? 何日周期? 何日続きますか? 初経は何歳のときでしたか? 月経の量が多いですか? 月経の量が異常に少ないですか? 月経痛が激しいですか? 月経の前数日間に頭痛がしたりイライラしたり情緒不安定になったりしますか? 月経以外の出血が不定期にあったことがありますか?
・閉経した方へ:何歳のときに閉経しましたか? 更年期障害(顔のほてり・寝汗・気鬱・関節痛・不眠など)で困っていますか?
・性関係をもっていますか? 相手は異性,同性,両方のいずれですか? 性生活に満足していますか? 性生活について知りたいことや聞きたいことがありますか? 安全な性生活(コンドームの使用)を実行していますか? HIV(エイズ)の検査を受けたことがありますか? 保健所で匿名・無料で受けられることを知っていますか? HIVについて何か知りたいこと・聞きたいことがありますか? 避妊について何か知りたいこと・聞きたいことがありますか?
X. 男性性器
・陰茎の痛みや分泌物や感染がありますか?
・性関係をもっていますか? 相手は異性,同性,両方のいずれですか? 性生活に満足していますか? 性生活について知りたいことや聞きたいことがありますか? 安全な性生活(コンドームの使用)を実行していますか? HIV(エイズ)の検査を受けたことがありますか? 保健所で匿名・無料で受けられることを知っていますか? HIVについて何か知りたいこと・聞きたいことがありますか? 避妊について何か知りたいこと・聞きたいことがありますか?
XI. 四肢・関節
・関節や手や足に問題はありますか? ふしぶしが痛みますか? 赤くなったり腫れあがったりしますか?
・足が痙攣したり痛んだりしたことはありますか? 歩行時に? 安静時にもですか?
・足の静脈が盛り上がっていますか? 腫れや痛みがありますか?
・足首がむくんでいますか?
・腰が痛いですか?
XII. 内分泌
・暑がりだったり寒がりだったりして,部屋の温度設定がほかの人と合わないことがありますか?
・やたらに喉が渇きますか?
XIII. 皮膚
・発疹がありますか?痒みは?
XIV. 心理
・鬱々として気分が晴れませんか? 涙もろくなりましたか? 怒りっぽくなりましたか? 集中力が低下していますか? 以前楽しかったことに興味を失ってしまいましたか? 死にたいと思うことがありますか?
・物忘れがひどいことはありませんか?

表1 Review of systemsによる問診結果①
I. 全身状態 ・37℃台発熱,3カ月で6kg体重減少,多汗あり,入眠困難あり,手の震えあり
II. 頭部・中枢神経系 ・異常なし
III. リンパ系 ・異常なし
IV. 乳房 ・異常なし
V. 呼吸器系 ・異常なし
VI. 心臓・血管系 ・動悸あり
VII. 消化器系 ・下痢あり
VIII. 腎・尿路系 ・異常なし
IX. 女性性器 ・異常なし
X. 男性性器 ・異常なし
XI. 関節・四肢 ・異常なし
XII. 内分泌 ・口渇強い
XIII. 皮膚 ・異常なし
XIV. 心理 ・午前中眠気あり,夕方元気になる,食欲低下あり(SSRI処方されている)

指導医 Review of systemsの結果からは,どんな疾患を疑い,身体所見は何が重要になりますか?

研修医B 下痢があるところから,腸炎も鑑別に挙げて,海外渡航歴や生物の摂食歴も問診に加えたりしつつ,腹部の聴診,打診,触診をします。

指導医 そのほかには何かありませんか?

研修医C 口渇と動悸があるので脱水も疑います。

指導医 血液検査ではどのような項目をみたいですか?

研修医C BUN,クレアチニンや血算などです。

指導医 口渇があるので,BUNとCreの比をみるのは良いことですね。しかし,Review of systemsで注目する点としては,症状の組み合わせから鑑別をしぼります。また,特異性の高い症状から注目していくことも大事です。

研修医D はい。特異性が高い症状ですと,手の震えに注目します。

指導医 どういう病気を考えますか?

研修医D 電解質異常によるテタニーとか,甲状腺機能異常などです。

指導医 そうですね,特異性の高い症状で手指振戦に注目し,次に,その他の症状との組み合わせから疾患を限定していきます。

 手指振戦に加えて,微熱,動悸,下痢があり,全身倦怠感,体重減少となればだいぶ疾患をしぼることができましたね。

 では,最終診断をみてみましょう。

診断とその根拠
(診断) 甲状腺機能亢進症
(根拠) 慢性経過の全身倦怠感,体重減少,手指振戦,微熱,動悸,下痢

指導医 入院後緊急に測定した血液検査所見では,TSH0.01μIU/ml未満,fT43.49ng/dlと,甲状腺機能亢進症であることがわかりました。微熱がありましたが,CRPは正常でした。心電図では,心房細動などの不整脈はなく洞性頻脈のみであり,内分泌内科と相談して,外来で治療を開始することになりました。全身倦怠感を診るときのポイントは,見逃していけない疾患に,悪性腫瘍・慢性感染症・膠原病・内分泌疾患・肝疾患・腎疾患などがあることです。

 問診の進め方としては,Review of systemsを使って,全身状態から体系的に鑑別をしぼっていきます。Review of systemsで得た情報のなかで,注目する点としては,症状の組み合わせから鑑別をしぼることです。また,特異性の高い症状から注目していくことです。

 今回の場合は,Review of systemsで得た情報で,特異性の高い症状として手指振戦があり,微熱,動悸,下痢などと組み合わせると,全身倦怠感・体重減少の原因が甲状腺機能亢進症であるとわかるのです。

研修医E 甲状腺機能亢進症であると,夕方元気になるのですか?

内分泌専門医 普通の場合は夕方に疲れてくる人が多いのですが,甲状腺機能亢進症の患者では,疲れがこないということでしょう。

研修医E この患者に甲状腺腫大はなかったのですか?

内分泌専門医 実際の臨床では,頸部の触診で甲状腺腫大を認めないことも多いです。

研修医E 甲状腺機能低下症であれば,全身倦怠感は有名ですが,甲状腺機能亢進症でも同様に全身倦怠感は生じるのですか?

内分泌専門医 もちろん,甲状腺機能低下症の方が多いですが,機能亢進症でも疲れを訴える患者さんはいます。動いていないのに,筋肉での代謝が亢進していて,エネルギーの消費が起こるからかもしれません。

 また,甲状腺機能亢進症の患者さんでは,男性では疲労感を訴える方が多く,女性では動悸を訴える方が多いですね。

内分泌専門医 また,この症例で内分泌内科的なポイントとしては,亜急性甲状腺炎との鑑別です。3カ月の経過で生じていることから,Basedow病だと思われますが,亜急性甲状腺炎は除外しておきましょう。亜急性甲状腺炎なのにメルカゾール®内服はよくないですからね。鑑別のポイントとしては,CRPをチェックすることです。この症例では正常であったので,すぐにメルカゾール®を開始したわけです。また,高齢者の手指振戦をみると,Parkinson病も鑑別に挙がりますね。そういうときは,脈を触診してみましょう。脈拍が速くて,強く,リズムが不整であれば,Parkinson病よりも甲状腺機能亢進症を疑います。

症例1から学ぼう
(1)Review of systemsで得た情報で,特異性の高い症状から注目していこう。
(2)Review of systemsで得た情報のうちで,症状の組み合わせから鑑別をしぼろう。
(3)全身倦怠感,体重減少に加えて,手指振戦を認めたら,甲状腺機能亢進症を疑おう。

(つづきは本誌をご覧ください)