HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻4号(2008年4月号) > 連載●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係
●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係

第4回テーマ

患者に怒りよりも悲しみを伝える

灰本 元(灰本クリニック)


 患者-医師関係がいつもうまくいくわけではない.患者も医師もその時々にいろいろな日常的苦難を抱えているから心身とも不調な時期もあって,そういうときは早く一日が過ぎてくれればと無事を祈りながら診療することもある.また,患者のなかには性格がゆがんだ人(いわゆる人格障害圏)や精神病圏の人もかなりの数(統計的に人格障害は10人に1人,精神病圏は100人に数人レベル)いるから,うまくいかなくても何も全部自分のせいにすることはないだろう.

■一方的に医師側が我慢する関係は破綻する

 必ず言えることは,一方的に医師側が我慢するような患者-医師関係はいずれ破綻する.例えばコントロール不良の中年女性の糖尿病患者にしばしば見かけるのだが,今月は温泉旅行,先月は昼の食事会,先々月は自宅の畑で西瓜がとれた,その前は孫が来た,あれやこれやと言い訳しながら毎回食事療法を無視する患者では,冷静に距離を取れば永久に血糖コントロールは改善しないし,そのうち関係は完全に固定して患者ペースとなってしまう.帰り際の「次はちゃんと食事療法してくださいね」は全くむなしい一言になってしまう.かといって本気になれば無力感にさいなまされるか,いつも怒りを抱えながら一触即発の診療にならざるを得ない.いずれにせよ,うまくはいかない.同じような診療風景はアルコール依存症や決して家庭血圧を測定しない高血圧患者さんでもしばしば経験する.

■来なくなった患者──私の失敗例

 そこで,今回は私の失敗例をかえりみながら,毎回医師に無力感や怒りを植え付ける患者との固定された患者-医師関係をどうすればよいかを考えてみたい.

 初めの症例は60歳,女性,無職,高血圧の通院歴3年,合併症はない.病気に無関心,検査嫌いにもかかわらず毎月通院して来る患者で,私の治療方針に乗らないので以前から困っていたのが一つの伏線.寒くなって血圧が上昇する11月の会話.

灰本 血圧をつけてますか?

患者 いいえ,最近,落ち着いているのでつけなくなりました.

灰本 うーん,それは困ったなー.10月頃まではときどきはつけてましたね.今から寒くなって血圧が上がる時期ですから,早朝だけでもつけませんか.

患者 朝,主婦は忙しいから,つけるのが面倒で.

灰本 そこをなんとか.せいぜい3分で測れますから.早朝の血圧がわからないと薬の量も調節できないのでね.

患者 …….

灰本 ところで,1年半以上胸のレントゲンを撮ってないですね,心臓の大きさも知りたいし,肺癌ができていても困るので,今日撮りましょうか.

患者 でも私はたばこも吸わないから,肺癌は全然心配してません.症状はないし,心臓も大きくなってないと思いますよ.

灰本 いやいや,最近はたばこに関係ない女性の肺癌のほうが多くなっているんです.

患者 肺癌なんて私の家系に一人もいないし.

灰本 女性の癌死では2番目に多いんです.家系は関係ないんです.

 ここからしばらく肺癌の怖さ,当院で毎年10人以上が見つかっており,60歳代の女性も多いことを熱っぽく説明したが,結局,患者は年一回の胸部X線撮影さえ首を縦に振ろうとしなかった.

(つづきは本誌をご覧ください)