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●患者が当院(ウチ)を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係

第2回テーマ

ありふれた血圧手帳で患者-医師関係をつくる

灰本 元(灰本クリニック)


 不安障害や抑うつなどの心理的問題を背景とした病気では,患者-医師関係は一義的に重大であるから,たくさんの心理的な問題を扱った書物がある.生活習慣病でも同じように患者-医師関係は重大なのだが,意外にもそれを主題にした総説や随筆に出会った経験がない.今回は高血圧患者で私なりの流儀を綴ってみたい.

薬のリスクよりも患者-医師関係が大事

 降圧薬の開始にあたって医学的に難しいものは特にない.できれば頸動脈エコーを早めに検査して狭窄が強くないことを確認しておく.狭窄が50%以上なら,いくら血圧が高くても数カ月以上かけてゆっくり降圧しないと,めまい,ふらつき,脳神経症状などが発現する.特に70歳以上で医療機関に全く縁がなかった患者さんでいきなり降圧薬を使うときは要注意である.

 高血圧についてのいろいろな講演や論文では,薬の種類と血管障害のリスクなどがかまびすしく論議されているが,実際はそんなことより薬を介する患者-医師関係はもっと重要である.

家庭血圧手帳という絶好のツール

 降圧薬を処方するとき,家庭血圧手帳は医学的にも心理的にもすばらしいツールだと思う.当院では家庭血圧測定はほとんどの患者さんに行き渡っており,2004年の調査(当時1,000人の高血圧患者から無作為抽出450人)では早朝血圧を測定して手帳に記載している患者の割合は50~60歳台では80%,70歳以上でも70%前後と高いが,30~40歳台では30%と低くなった.いくら言ってもこの病気をなめており,測定しないのは若年者である.

 家庭血圧を朝,夜つけること自体が治療しているようなもので,患者は自分の体調,仕事の忙しさ,いらいら,寝不足,低気圧,季節,室内温などいろいろな要因と血圧変動の関係を私よりよくわかるようになる.血圧は排尿,排便後や入浴後には,最高血圧が7~10mmHg程度下がるが,患者はそのような細かな血圧の変化も私に教えてくれる.今回は二例の血圧手帳を題材として,ある日の診察室の風景を再現してみたい.

「病気でなくて人を診る」

 図1は50歳女性,早朝高血圧もあるのでナトリックス®1mgとオルメテック®5mgを朝に,アダラートL®10mgを寝る前に内服中であった.ある月の血圧手帳で一日だけ早朝血圧が高かった.当院通院歴は6カ月.

灰本 あれ,ここだけ高いですねー.
患者 その前の夜,寝る前の赤い薬(アダラートL®のこと)を飲み忘れちゃったんです.
灰本 ほおー,いつも几帳面に飲んでいるのに,きっと何かあったんでしょうね.
患者 そうなんです.この日は朝から子どものことでいろいろめんどうなことが重なって,いらいらしていたのか,つい忘れてしまって.
灰本 それにしても,この寝る前の薬はよく効いていますね.
患者 血圧は正直ですね.一回忘れただけで朝こんなに上がって,びっくりしました.
灰本 それを忘れたわけだから,よほどの事件だったんだ.
患者 そうなんですよ!
灰本 たしか,お子さんは高校生でしたっけ?
患者 ええ,一番下の子はA高校の1年生なんですが…….
灰本 なんだか,わけありですね.
患者 うーん……(しばらく無言).いろいろあって……,一番下なので私が甘やかしたのか,5月から学校へ行かなくなってしまって…….
灰本 えっー,それは心配ですね.
患者 薬を忘れた日,担任の先生から呼び出しを受けて…….
灰本 あー,そうでしたか……,それでどうなりました?

 この血圧手帳をめぐる会話には二つの要点がある.

(つづきは本誌をご覧ください)


灰本 元
1978年名古屋大学卒業.関東逓信病院内科(現NTT東日本関東病院)レジデント,名古屋大学大学院病理学教室,愛知県がんセンター研究所病理部,中頭病院(沖縄市)内科勤務などを経て,1991年春日井市(愛知県)に灰本クリニック開業.高血圧,胃・大腸内視鏡,CTによる癌診断,炭水化物制限食による糖尿病と肥満の治療,アトピー性皮膚炎の治療,心身症のカウンセリング,煎じ薬による漢方治療などを診療の特徴としている.毎月の患者数は約2000人.