HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻4号(2008年4月号) > 連載●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集
●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集

第4回テーマ

リスクマネジメントのABCD
その2 事故が起こらないような組織をつくる

田中まゆみ(聖路加国際病院・一般内科)


 前回に引き続き,リスクマネジメントのABCDより「A:Anticipate(予見する)」について取り上げる.前回は,医師個人として日ごろから,リスクマネジメントの基本となる「予見性」を身につけるにはどうしたらよいかを中心に述べたが,今回は医療機関という組織として「予見性」を身につけるにはどうすべきか,また,個々の医師としてどうこの問題にアプローチすべきか,考えてみることにしたい.

リスクマネジメントのABCD
A=Anticipate………(予見する)
B=Behave…………(態度を慎む)
C=Communicate …(何でも言いあい話し合う)
D=Document………(記録する)


■組織の風土を改善する──組織はどうあるべきか?

 医療機関がリスクマネジメント(医療安全)委員会の活動を活発に行っているかどうかは,その医療機関の安全性をはかるうえで大きな目安になる.医療事故を予防するには,個人の注意力ではなく,事故が起こらないような仕組みを構築する組織力が重要である.ところが,医療界はこの「風土(カルチャー)」の点で非常に前近代的で立ち遅れているので,他業種を参考に,医療界の風土を一刻も早く改善していかなければならない.

【1】Fail-safe

 麻酔ガスと酸素を間違ってつなぐ,栄養液を静脈点滴路に注入する,などの「誤接続」事故は,個人がどんなに細心の注意を払っても,一定の確率で再発する.真の再発防止策は,個人の注意を喚起するばかりではなく,管そのものをつながらないような規格にしてしまうこと,つなごうとしても「不可能」にしてしまうことである.

 このようなシステム自体の不完全さを洗い出すには,他業種のリスクマネジメント手法に学ぶこと(医療はリスクマネジメント後進産業である),特に,系統的な根本原因分析(Root cause analysis)(注1)が非常に役立つ.

■同じ事故が繰り返されたら,システムの不備を疑おう

 系統だった根本原因解析は,システムの改善に役立つ.再発を防ぐには,根元を断つ.

【2】No blame

 事故原因を個人の不注意に帰しても不毛であり同じことは繰り返され続けるであろうことは,「誤接続」ミスの例でも明らかである.当事者を罰しても何の解決にもならず,次の犠牲者(患者も医療者も)はなくならない.ミスを責めるより,なぜそのミスが起こったかを,当事者からの情報を生かして解明することが事故防止につながる.インシデントレポートを奨励し,書いた者が不利になることがないことを保証し,書かれたことを生かすような職場環境が望ましい.事故が起こってしまったあとでは,根本原因分析が重要である.

(つづきは本誌をご覧ください)

注1)
・ある問題(事故や苦情や不良品など)が起こったとき,その原因を直接的な単純な要因(個人の不注意や不適切な対応など)に求めず,深く潜む根本的問題に根ざすものではないかと掘り下げて,根本原因(隠蔽の企業風土など)を取り除くことで問題の再発を予防しようという手法.「品質向上(QI:Quality Improvement)」の一環でもある.