●研修医のためのリスクマネジメント鉄則集 |
第4回テーマ リスクマネジメントのABCD
田中まゆみ(聖路加国際病院・一般内科) 前回に引き続き,リスクマネジメントのABCDより「A:Anticipate(予見する)」について取り上げる.前回は,医師個人として日ごろから,リスクマネジメントの基本となる「予見性」を身につけるにはどうしたらよいかを中心に述べたが,今回は医療機関という組織として「予見性」を身につけるにはどうすべきか,また,個々の医師としてどうこの問題にアプローチすべきか,考えてみることにしたい. リスクマネジメントのABCD
■組織の風土を改善する──組織はどうあるべきか?医療機関がリスクマネジメント(医療安全)委員会の活動を活発に行っているかどうかは,その医療機関の安全性をはかるうえで大きな目安になる.医療事故を予防するには,個人の注意力ではなく,事故が起こらないような仕組みを構築する組織力が重要である.ところが,医療界はこの「風土(カルチャー)」の点で非常に前近代的で立ち遅れているので,他業種を参考に,医療界の風土を一刻も早く改善していかなければならない. 【1】Fail-safe麻酔ガスと酸素を間違ってつなぐ,栄養液を静脈点滴路に注入する,などの「誤接続」事故は,個人がどんなに細心の注意を払っても,一定の確率で再発する.真の再発防止策は,個人の注意を喚起するばかりではなく,管そのものをつながらないような規格にしてしまうこと,つなごうとしても「不可能」にしてしまうことである. このようなシステム自体の不完全さを洗い出すには,他業種のリスクマネジメント手法に学ぶこと(医療はリスクマネジメント後進産業である),特に,系統的な根本原因分析(Root cause analysis)(注1)が非常に役立つ. ■同じ事故が繰り返されたら,システムの不備を疑おう系統だった根本原因解析は,システムの改善に役立つ.再発を防ぐには,根元を断つ. 【2】No blame事故原因を個人の不注意に帰しても不毛であり同じことは繰り返され続けるであろうことは,「誤接続」ミスの例でも明らかである.当事者を罰しても何の解決にもならず,次の犠牲者(患者も医療者も)はなくならない.ミスを責めるより,なぜそのミスが起こったかを,当事者からの情報を生かして解明することが事故防止につながる.インシデントレポートを奨励し,書いた者が不利になることがないことを保証し,書かれたことを生かすような職場環境が望ましい.事故が起こってしまったあとでは,根本原因分析が重要である. (つづきは本誌をご覧ください) 注1)
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