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●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより

第13回最終回 テーマ

敗血症のマネジメント

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,腎臓内科 総合診療科,感染症科)


■ケース
発熱,意識障害で来院した82歳男性

現病歴:ADLは杖歩行でどうにか自立しているが,認知症がある82歳男性.3日間続く発熱と1日前からの意識レベルの低下および低血圧にて救急外来に救急車にて搬送された.患者は老人ホームに入所中である.既往歴に高血圧,高脂血症,閉塞性動脈硬化症,コントロール不良の2型糖尿病(内服薬治療のみ),心房細動,70歳時に心筋梗塞にて前下行枝にPCIを行っている.内服薬は降圧薬(ACE阻害薬),高脂血症薬(HMG-CoA還元酵素阻害薬),利尿薬,アスピリン,ジゴキシン,グリメピリド.薬剤アレルギーはない.

身体所見:体温39.8℃,心拍数130/分,整,呼吸数26/分,血圧90/40 mmHg(ふだんは150/80 mmHg程度),SpO2感知せず.全身状態:かなりきつそうにみえる,頭目耳鼻喉:とくに問題なし,頸部:問題なし,項部強直なし,心臓:I・II音正常,雑音あり,心尖部に逆流性の収縮期雑音,胸部:両肺野に水泡音あり,腹部:平坦・軟,腫瘤なし,四肢:冷感・チアノーゼ,網状皮疹あり,浮腫はないが両足先が黒色壊死している.腰背部に褥瘡(Shea分類:Ⅳ度)あり,周囲に発赤,腫脹,熱感を伴う.

検査データ:血液所見:ヘマトクリット30%,白血球 22,000/ml(80%好中球,15%桿状球,5%リンパ球),血小板40,000/ml,血清生化学所見:ヘモグロビン7.5 g/dl,BUN/Cre 60/2.1,血糖・電解質に異常なし,CRP 25,髄液所見:白血球なし,蛋白,糖異常所見なし,胸部X線:両肺野浸潤影,尿所見:pH7,蛋白・糖(+),赤血球10~15/HPF,白血球10~20/HPF,細菌+,心エコー上明らかな疣贅はないが僧帽弁閉鎖不全あり(以前から指摘されている),腹部エコー上胆嚢壁の腫脹はない,水腎症の所見はないが膀胱緊満している.

■はじめに

 2004年に敗血症のマネジメント上,重要なガイドラインが発表されました.それが“Surviving Sepsis Campaign”です.ガイドラインでは次の19項目について触れています.本稿ではこのガイドラインを中心に敗血症の現時点での最良なマネジメントについて考えていきます.

A.初期蘇生治療 
B.診断 
C.抗菌薬療法 
D.感染源コントロール 
E.輸液療法 
F.血管収縮薬 
G.強心薬 
H.ステロイド 
I.活性型プロテインC
J.血液製剤投与 
K.人工呼吸療法(ALI, ARDS) 
L.鎮静,鎮痛,神経筋弛緩薬 
M.血糖値コントロール 
N.人工腎臓補助療法 
O.重炭酸療法 
P.深部静脈血栓予防 
Q.ストレス性潰瘍予防 
R.治療抑制,撤退 
S.小児患者の扱い

【Q1】この症例では敗血症の存在が疑われますが,そもそも敗血症の定義とはどういうものでしょうか?

敗血症の定義
 まず“敗血症とはなにか?”について定義を確認しましょう.ACCP/SCCM Consensus Conference 1992でSIRSおよび敗血症は以下のように定義されています.

SIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome):以下の4つのうち2項目以上

1.体温>38℃または<36℃
2.呼吸数>20/分またはPaCO2<32 mmHg
3.心拍数>90/分
4.白血球数>12,000/mlまたは<4,000/ml

幼弱好中球(桿状核球)>10%
敗血症 Sepsis:SIRS2項目該当+感染症あり・疑い
重症敗血症 Severe Sepsis:敗血症+多臓器障害+循環不全

循環不全……尿量低下,乳酸アシドーシス,意識レベル低下

敗血症性ショック Septic shock:重症敗血症+難治性低血圧 難治性低血圧
……十分な輸液に反応しない低血圧(血圧90 mmHg未満,平時より40 mmHg以上低下)

 ここで重要なポイントは,SIRSと診断するための項目4つうち3つがバイタルサインであることです.そのためSIRSを疑ったときにはバイタルサインのチェックおよび採血での末梢血白血球数の確認を迅速に行い,SIRSの判定基準を満たすかどうかを判断するのです.

 SIRSの状態が感染症(疑い)で起こっている場合を敗血症と定義します.

(つづきは本誌をご覧ください)


大野博司
2001年千葉大卒.麻生飯塚病院初期研修後,舞鶴市民病院内科勤務.04年より米国ブリガム・アンド・ウィメンズホスピタル感染症科短期研修後,洛和会音羽病院総合診療科.05年より現職.内科医として多臓器不全管理,一般病棟・透析管理,一般・特殊外来,往診をこなす.著書に『感染症入門レクチャーノーツ』(医学書院),『診療エッセンシャルズ』(日経メディカル開発).