HOME雑 誌medicina誌面サンプル 45巻5号(2008年5月号) > 連載●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより
●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより

第2回テーマ

市中感染症診療の基本原則

大野博司(洛和会音羽病院ICU/CCU,腎臓内科総合診療科,感染症科)


Point

●感染症初期治療の失敗がすべて“広域スペクトラム抗菌薬への変更”を意味しない
●初期治療に反応しない場合,そのときの患者の状態および系統だった以下の項目について点検する


 感染症診療において初期治療を開始するも,(1)解熱しない,(2)白血球,CRPが下がらないために抗菌薬を次々と広域スペクトラムに変更していくことは日常診療でよくみられます.

 しかし市中感染症のマネジメントにおいては,「治療への反応が乏しい=現在使用している抗菌薬が無効」を必ずしも意味していません.

 抗菌薬初期治療失敗の考え方は図1を参考にしてください.

 初期治療がうまくいかなかった場合,(1)“非”感染症,治療不可能な感染症,(2)発熱しているが,臨床的に安定・改善傾向,(3)臨床的に増悪,の3つのどの状態にあるかをまず考えます.そのうえで,以下のケースでの対応に従い,初期治療がうまくいかなかった場合の対処法について考えていくとうまくいきます.

■ケース1

70歳男性.ADL自立していたが,1カ月続く発熱,食欲低下で寝たきりの状態.外来にてセフェム系抗菌薬内服,ニューキノロン系抗菌薬内服するも改善なし.精査加療目的で入院後にカルバペネム系抗菌薬点滴.無効.ミノサイクリン点滴にても改善せず.

 このケースは,その後入院し,詳しく病歴,診察を行い,“左右対称性の全身の筋痛および微熱の持続”があり,培養(血液,尿)を繰り返し陰性であることを確認し,リウマチ性多発筋痛症の診断でプレドニゾロン30mg内服開始し解熱し全身状態が改善しました.

 そのため,抗菌薬治療に反応しない発熱をみたら,まずは

「1. 感染症ではなく,薬剤熱,悪性腫瘍,自己免疫疾患などの非感染症性疾患」
を考慮することが大切です.このときの対応として,診断を再考することが重要です.

■ケース2

20歳男性.ADL自立.40度の発熱,咽頭痛で受診.細菌性咽頭炎の診断でアモキシシリン内服処方.翌日になるも解熱せず咽頭痛が悪化するため再診.外来担当医はあわててニューキノロン系抗菌薬を処方しようとした.

 このケースでは病歴を確認すると,兄弟が2日前にインフルエンザで入院していることがわかりました.インフルエンザ迅速検査にて案の定A型陽性となりました.

 細菌による感染症だけでなく,感染臓器(このケースでは咽頭)によってはウイルスによるものを考慮する必要があります.

「2. 抗菌薬無効の感染症=大部分のウイルス感染症」
 このときの対応として,抗菌薬を中止することが重要です.

■ケース3

70歳男性.入院後に発熱,下痢,腹痛および白血球上昇あり.便CD抗原陽性.偽膜性腸炎の診断でバンコマイシン点滴静注するも改善なし.

 このケースでは,上級医が“偽膜性腸炎には,メトロニダゾール(フラジール®内服)かバンコマイシン内服でないと効果がでない”ことを担当医に伝え,メトロニダゾール内服にて改善しました.

 投与方法によって効果に違いがあります.また各抗菌薬には抗菌スペクトラムがあり,想定している感染臓器ごとに使い分ける必要があります.また国内の保険適応量では欧米ほど十分な効果が得られない抗菌薬があることにも注意が必要です(特にペニシリン系).

「3. 抗菌薬選択の誤り(抗菌スペクトラム,カバーが不適切),投与量・投与経路の誤り」
 このときの対応としては,抗菌薬の変更・追加,投与経路・投与量の変更が必要になります.

(つづきは本誌をご覧ください)


大野博司
2001年千葉大卒.麻生飯塚病院初期研修後,舞鶴市民病院内科勤務.04年より米国ブリガム・アンド・ウィメンズホスピタル感染症科短期研修後,洛和会音羽病院総合診療科.05年より現職.内科医として多臓器不全管理,一般病棟・透析管理,一般・特殊外来,往診をこなす.著書に『感染症入門レクチャーノーツ』(医学書院),『診療エッセンシャルズ』(日経メディカル開発).