●市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより | ||||||
第1回テーマ 市中感染症診療の基本原則 青木眞(サクラ精機(株)学術顧問) 連載を始めるにあたって日本感染症教育研究会(Infectious Diseases Association for Teaching and Education in Nippon:以下IDATEN)は,日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために活動している団体です.2005年の1月に設立され,本年で4年目となりました. IDATEN では,現場の医師・医学生たちが,臨床感染症に関するPeer reviewed journalなどの良質の一次資料を通じて正しい知識を得ることを期待しています.良質な資料は英文が多いですが,英文の資料を読みこなすのはハードルも高いのが実情です.一方で邦文の良質な学習資材は数が少なく,多くの方が標準的な感染症診療の方法の学びに困難を感じています.これに対して,良質の教育資材を求める声がIDATEN に多く寄せられてきています. IDATEN ではこうした切実な声に応えるべく,臨床感染症の良質の教育資材を提供していくために今回の連載を企画しました.この連載は,現場の医師・医学生の方々がやがては良質の一次資料を自在に読みこなし,自身の日々の臨床に生かしていくというゴールに達していただくための,IDATEN の長期的な計画の一段階として行うものです.同時にIDATEN としての第一弾の本格的な情報発信でもあります. 皆様,ご期待のほどよろしくお願いいたします. 日本感染症教育研究会 代表世話人
市中感染症診療の基本原則
市中感染症も医療施設関連感染症も感染症である以上,そのポイントは,上に掲げた4つの重要な要素が検討されているかどうかが鍵となる.この4要素を有機的に関連させながら良い感染症診療を行うためには,微生物学的な知識に加えて,広範な鑑別診断を展開しながら臨床像を分析する必要がある.総合診療や家庭医学の専門家に優れた抗菌薬の使い手が多い背景には,彼らが「問診や身体所見から得られる情報をていねいに検討しながら診療を行っていく」方々であるという事実がある.以下,この4要素について概説する. ■正確な感染症の存在とその重症度の認知感染症存在の認知感染症の存在を考えるにあたり,発熱やCRP(C-reactive protein)といった「いわゆる」炎症反応を示す指標に依存しすぎないことが重要である.発熱の存在は感染症を考える一根拠にはなるが,「発熱=感染症の存在」ではないことを理解する必要がある.発熱の原因は感染症以外にも多くあり,悪性腫瘍,膠原病,薬剤アレルギーなどがよい例である(表1).また,発熱を認めない感染症も多いため,発熱やCRP依存性の感染症探しから自由になることが最も重要である.「発熱やCRP上昇=感染症アリ」,「平熱=感染症ナシ」といった感覚が身についてしまうと,「目の前の臨床像の鑑別診断に感染症が含まれるか?」という検討を適切に行えなくなる危険がある.意識状態の変化,過換気といった臨床像の変化や原因不明の呼吸性アルカローシス,代謝性アシドーシスといった検査データの変化は,発熱や白血球数・CRP上昇と同様かそれ以上の意味をもつと考えるべきである(表2参照).
重症度の理解「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度」といった初歩的な誤解も散見される.重症の細菌性肺炎では白血球数は1万/μlを超えるかもしれない.さらに重症化すれば白血球数は3,000/μlに低下するかもしれない.それならば正常白血球数は重症からさらなる重症に移行する経過の値であるかもしれない.病態の理解に基づかない検査データの解釈は意味がない.(つづきは本誌をご覧ください)
参考文献
青木 眞
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