HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻1号(2007年1月号) > 連載●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために
●できる医師のプレゼンテーション-臨床能力を倍増するために

第10回テーマ

場所に応じたプレゼンテーション

川島篤志(市立堺病院・総合内科)


肺炎で入院している変形性膝関節症の入院症例で
研修医:(一通りの業務が終わった夜)あー,今日もやっと終わりだなぁ。○○さんの採血結果は……,あっ!ヘモグロビンが低下している!大変だ!
(指導医のPHSに急いで連絡)△△先生,大変です!
スタッフ:今,会議中なんだけど。急ぎの用事?
研修医:あ,すみません。○○さんの今日の朝の血液検査結果で貧血があったんですけど……。
スタッフ:朝のデータを今見たの?急ぎな感じ?バイタルは安定している?前回からの変化は?
研修医:あっ……,身体所見は取ってません。前回のデータも……,まだ見てません。看護師の記録には昨日から黒色便があって……。
スタッフ:もういいから。会議から出てすぐに行くから,まずしっかり状況を把握して。
研修医:……。

内科救急での腹痛症例を,外科にコンサルトする場面で
研修医:内科の○○です。△△先生,今お時間よろしいですか?
指導医:(応対もしっかりしていて,いい奴だな)うん,いいですよ。
研修医:今,救急の症例を見ているのですが,28歳の女性で主訴は腹痛です。基礎疾患には特に何もなく……。(数分経過)
指導医:(だんだん,イライラしてきて)うん,それでこっちは何をしたらいいのかな?検査の相談?処置の相談?
研修医:あ,すみません。結論からいうと所見で右下腹部に圧痛があり,急性虫垂炎も否定できない印象があって,とりあえず外科の先生にも診ていただきたいと思いまして……。
指導医:(怒りながら)あー。じゃぁ,「とりあえず」診に行けばいいわけですね。じゃあ行きます(ガシャ!)。
(外科医の診察が終わっても,研修医は現れず。腹部CTだけがシャーカステンにかけられている)
指導医:さっき,僕をコールした研修医はいないの?救急は今,すいているみたいだけど。
看護師:ジュースを買って,休憩室に向かっていましたよ。私たちの分も買ってくれたんです。
指導医:時間があるなら,すぐここに呼んで!(すぐに研修医が来て……)この症例,どのように考えたの?病歴では,骨盤内炎症を疑ってもよさそうだけど。この画像の評価は? 
研修医:どういったところが,骨盤内炎症みたいなんでしょうか?画像は,明日になれば正式な所見がつくと思ったので,自分では見ていませんでした。よかったら教えていただけませんか? 
指導医:もう診察は終わりました!患者さんにも説明をしておきました。時間がもったいないので,戻ります!
研修医:……。

 前回までは,日常臨床のなかで聞いてくれる予定(苦痛に思っている指導医もいるかもしれませんが)の人に対してのプレゼンテーションでした。

 コンサルトは,主として自分の診療能力範囲内では診られなくなったときに発生します。臨床を続ける限り,必ず誰かに相談をする機会があります。いろんな意味でチーム医療が必要となり,コンサルテーションが必須になります。

 コンサルテーションは普段のプレゼンテーション以上に難しいものです。

 その理由としては下記のものが挙げられます。

●日常臨床のなかで,こちらの話を聞いてくれる予定にない相手と話をする=我慢強く話を聞いてくれるかどうかわからない
●いろいろな理由で「困っている」症例を,しっかりと把握し,短い時間で過不足なく伝えることが難しい
●コンサルトした意見で最終結論が出るわけではないこともある(否定されたとき,多くの方に相談したとき,患者さんの情報が入っていないとき)

 今までのお話ししたプレゼンテーションのための情報収集,話し方のこつ,相手の求めているものを統合して,はじめてコンサルテーションがうまくいくものです。今回は,総論のあと,それぞれの場面のコンサルト(救急場面,専門科,検査/処置依頼)を想定してお話しします。

(つづきは本誌をご覧ください)


川島篤志
1997年筑波大学卒。京都大学医学部附属病院,市立舞鶴市民病院にて研修。2001年より米国Johns Hopkins大学 公衆衛生大学院に入学し,MPH取得。2002年秋より現職。院内での総合内科の充実を目指すとともに,全国規模で,研修病院としての「経験の共有」,総合内科/総合診療/家庭医療/プライマリ・ケアの「横のつながり」を意識しながら,この分野を発展させていきたいと強く感じている。
本連載へのお問い合わせはkawashima-a@city.sakai.osaka.jpまで。