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●研修おたく海を渡る

第58回テーマ

「すぐ怒る医者 vs.つっけんどんな看護師」
~PHSとポケベル~

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 前回は,すれ違いをリセットする方法について書いてみました.

 アメリカに来て9年目に入りますが,「日本とアメリカの違いは?」とよく聞かれます.仕事から日常生活に至るまで,どこが違うのかあれこれ考えてみたのですが,PHSとポケベルの違いに気がつきました.今回はPHSとポケベルのちがいをテーマに「一呼吸おくこと,おいてもらうこと」の効用について考えてみたいと思います.

 日本ではポケベルがなくなって,かなりたちました.渡米する前には,僕も医療用PHSと書かれた電話を首にぶら下げていました.最初はうれしかったのですが,患者さんに大切な説明をしているときでも,PHSだと否応なく対応を迫られます.出ないことには要件の緊急度,重要度がわからないし,また電話をかける側もすぐに出てくれることを期待しているので,便利なようでたちが悪いです.

 一方アメリカでは,日本では見なくなったポケベルをまだ結構みかけます.現在の施設では,ウェブ上でテキストメッセージをポケベルに流せるシステムを使っていますが,これがいいのです.ネットにつながったコンピュータからなら,相手の番号あるいは名前を入力すれば,256文字までのテキストメッセージを送ることができます.交換手にテキストメッセージを送ってもらうこともできます.

 メッセージをいくつか紹介しましょう.

 「△△病院のERの××先生から,患者の○○さん(カルテ番号)について,連絡が来ています.保留して待たれているので,至急電話ください.(電話番号)」とか「時間のあるときに電話してください」「Please call me at(電話番号),○○さんが好中球減少の発熱で入院します.Keisuke(僕のベル番号)」「○○さんに,便秘薬の処方お願いします.時間のあるときに.ヘレン(電話番号)」という感じです.

 すぐに報告してくる看護師もいれば,ある程度工夫してくれたあとに報告してくれる看護師もいます.まったく待てない医者もいれば,のんびりした医者もいます.「すぐ怒る医者vs.つっけんどんな看護師」というのは永遠のテーマです.

 「あっ,またメアリーだ」とか「あれっ,めずらしい,スーザンだ」と,相手と要件がわかることで心の準備ができるのです.特に「またか」と思ったりしたときには,効果絶大です.ムカッとした気持ちを抑えるために,深呼吸してから電話をかけるだけで,ずいぶん違います.「一呼吸おくことの大切さ」わかっていただけると思います.

 また,夜中にベルが鳴っても,顔を洗い,気を引きしめてから電話にむかえます.さらにASAP(As Soon As Possible,至急),at your convenience(時間のある時に),FYI(For Your Information,情報までに)などと優先順位をつけることができるのがうれしいです.

 ただ一呼吸して,しっかり心の準備をしてから電話をしても,「私にはこの患者さんの愚痴につきあっている心の余裕,今日はないから!」とはっきり言ってくれる看護師さんももちろんいます.だからこそ,たまに“Good JOB !”とか“You are the BEST !”といったメッセージが入っているとその気になってしまうのです.日本でもPHSのテキストメッセージで,使えないでしょうか? 「今日のムンテラ最高(^_^)」なんて感じに.「すぐ怒る医者vs.つっけんどんな看護師」の解決策になるかもしれません.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.