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●研修おたく海を渡る

第52回テーマ

マッチングの季節(1) 個性を出す

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 またマッチングの季節がやってきました.昨年からインターン選抜委員となり,今年も50以上の応募書類を読みました.こういうエキストラな仕事はアメリカでも面倒くさがられるのですが,エッセイを読むのは嫌いでないので,なんとか楽しんでやっています.

 ERAS(electronic residency application service)というウェブ上のシステムになってから,応募先それぞれの様式にあわせて願書を作成する必要がなくなり,一括応募できる点は楽にはなりましたが,個性を出すのが難しくなったといわれます.たくさん応募するほど出願料は高くなり,31カ所以上は1つの応募先あたり25ドルもします.競争率の高いフェローシップである循環器内科や消化器内科では,アメリカ人でも,50以上のプログラムに応募することは稀ではないようです.ワンクリックで2,000ドル近くもかかったと言っているレジデントもいました.

 学校の成績,USMLEといわれる国家試験の成績,ボランティアや職歴を含めた履歴書,エッセイ,推薦状,そして面接での評価が考慮されます.

 国家試験の成績は,最高が99で表されるのですが,かなり重視されます.Step1とStep2をたいていは応募前に受験しているのですが,両方とも99といった高得点をそろえてくる学生も少なからずいます.学校の成績は,有名な学校でいい成績であればSolidな(しっかりした)学生だと評価されるのですが,あまり有名でない,特にアメリカ以外の学校は,いい成績でもどう解釈していいかわからないと言われてしまいます.評価はHonor,High Pass,Pass,Not Passと多くても4段階に分かれているだけです.

 学長からつまり大学からの推薦状は,エッセイ,履歴書,過去のローテーションの指導医,あるいはレジデントからの評価の切り貼りです.内科のローテーションでは,「すばらしい分析力を見せた」「チームの一員として欠かせない存在だった」とか,「いやな顔を見せずに,余計に頼まれた仕事をした」なんてコメントが並びます.みんな勉強熱心だし,チームプレーヤーだし,遅刻はしません.どうやって違いを出すのでしょう.ただ推薦するだけではインパクトがないのでHighlyやwithout hesitationがrecommendの前後につくことはよくあります.「トップ何%の学生だ」とか,「30年以上の指導歴の中で一,二を争う学生だった」なんてのもあります.「同じ時代に医学部を受けていたら,僕は入れなかったかもしれないぐらいすごい」と書かれた学生もいました.

 カリキュラム・ヴィテ(CV)と呼ばれる履歴書,またエッセイが,個性を出す少ないチャンスなのです.教会のミッショントリップでアフリカ,南米,ハイチなどで医療の手伝いをしたことや,ラボでの経験を書くことができます.保険がない患者などの無料クリニックの手伝い,内科勉強会の主催,地元の学校や病院でのボランティアなどもあります.スターバックスでバリスタ(コーヒーを入れる人)だったとか,GAPの店員なんてのもありました.ボランティア歴に「高校時代から定期的に献血をしている」というのにはさすがに思わず笑ってしまいました.書くべきか,書かないべきかずいぶん迷いながら書いたのでしょうが…….

 エッセイはどれだけ時間をかけたかが差がつくところだと思われます.なぜこの科を選んだかを綴るのですが,具体的なエピソードがあるほうが読み手は楽しいです.「分析するのが好きだ」とか,「内科しかない」というだけでは抜きん出るのは難しいでしょう.

 次回は「面接に呼ばれるまで」と,「選考会議」について,書いてみたいと思います.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.