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●研修おたく海を渡る

第51回テーマ

サービスライン マネジャー

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 今年に入り,Tumor Boardで必ず後ろのほうにどしっと座る女性を見かけるようになりました.発言はせずに,ひたすらメモをとっているのです.時々,含み笑いをしながら.

 数カ月経ち,スタッフミーティングではじめて彼女は自己紹介をしました.「サービスライン マネジャー」それが彼女の役職です.立場がわかってしまうとありのままの観察ができないので,あえて自己紹介をしなかったとのこと.

 「患者だけでなく医師,看護師含めたすべてのスタッフの満足度を上げるために来ました」「外来化学療法室にナースプラクティショナーをおけば,ちょっとした時に対応でき,医師も外来に集中できると思う.もう雇いたい人に声をかけておいたから」「患者と待合室で一緒に待ったんだけど,受付をしてからが長すぎる.受付したら,すぐにバイタルサインをとる流れを作りましょう.これが手順書ね」「その日の患者数にあわせて,ドクターにわりあてる診察室の数を変えることにしたから」

 2カ月の隠密行動で集めた情報をもとに,次々と問題点と改善策を挙げていくテンポの良さに圧倒されました.待合室,抗がん剤治療室,病棟の患者だけでなく,看護師,医師にも張り付き,導線を観察していたそうです.

 30年以上の経験のあるベテランがん専門看護師なのですが,そのキャリアの途中でMBAをとった努力家でもあります.がん看護師の経験とファイナンスの知識のバックグラウンドを元にいくつものがんセンターの立ち上げにかかわり,また立ち直りを助けて来ました.

 “「うちでは昔からこうやってきた」と言わない”という約束と,少しでも良くしようという雰囲気がスタッフ全体から感じられたので,引退を撤回し当院に来てくれたそうです.日本でのシステム作りに興味があると言ったら,「まだ帰るわけじゃないわよね」と釘をさしながらも,話を聞かせてくれました.

 「個々の性格をうまく尊重しながらシステムをつくること」“You've got to do, is you've got to do!”(やらなあかんことは,やらなあかん)などといいながら契約書に書かれた6つのJob Responsibilities (達成目標)まで渡してくれました.

 (1)ファイナンス:患者の数を増やしながら,コスト効率を追求する.予算編成にかかわる.寄付金を出してくれる人を探す.

 (2)成長:どこまで患者を増やせるかを見極める.成長するべきところを見つけ出し,的確な援助をする.

 (3)人材:スタッフを監督し,かつガイドする.スタッフの満足度が上がる職場環境を作る.採用活動だけでなく,やめずに長く働いてもらう工夫をする.看護師の代表として,医師の代表と交渉,協力する.

 (4)クオリティ:品質と安全管理を追求する.患者の安全を尊重し,倫理感の高い職場の雰囲気を作り上げる.臨床治験が安全に行われるようにサポートする.

 (5)サービス:満足度に責任をもち,カスタマーサービスを徹底する.部門間のコミュニケーションがうまくいくよう配慮し,確認をする.良質でかつ効率よくタイムリーな診療を推進する.

 (6)ストラテジー:病院全体の戦略とがんセンターの戦略に一貫性をもたせる.大学医学部の執行部とも連絡を密に取り戦略を作り上げる.戦略が実現可能な職場体制を作り維持する.

 「要は,当事者では手の回らないところに気を配り,患者が受診しやすく,スタッフが働きやすいインフラを作るのが私の仕事.まぁこういうことは下から言ってもなかなか変わらないしね.よーく観察して,上からガツンと!」

 なんとも心強い肝っ玉母さんという感じです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.