HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻1号(2010年1月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第49回テーマ

メンターはいますか?

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 初めてメンターという言葉に出合ったのは,横須賀米軍病院でした.インターンになってすぐに,指導医の一人がメンターとして割り当てられました.このときのメンターというのは,キャリア育成のためのメンターというよりは,慣れない研修生活中の相談役でした.面談で「調子はどう?」と聞かれても,なんだか照れくさくて,いつも“Good”とだけ答えていました.そのうち,彼がどんな研修医だったのか,どうやって専門を決めたのかといった話ができるようになりました.ある指導医はことあるごとに,「おれは,自分が全力で駆けてきた道を,おまえが8割の力で駆け抜けられるように,tips(コツ)を含めて,guide(指導)し,support(援助)する.そのかわり,残りの2割を,自分ができなかった新しいことに使って欲しい」と言っていたのを覚えています.

 ピッツバーグで30歳を過ぎて始めた内科のレジデンシーでも,メンターが割り当てられました.定期的な面談はもちろんのこと,相性がよくなければ変更も認められました.フェローになると,より自分のキャリアゴールに近い人をメンターとして探すように勧められました.メンターの選び方というレクチャーもありました.そこで強調されたのは,メンターを1人に決める必要はなく,臨床のメンター,研究のメンター,ライフスタイルのメンターなんていうのもありだということでした.それぞれの人生のステージにおいて,必要なメンターを見つけ,しかも取り換えてもいいのです.身内でなくても,外部の人でもいいのです.メンターは,sounding board―共鳴板のように,自分の立ち位置を教えてくれる人であり,またto doだけでなくnot to doを教えてくれる人がふさわしいと.厳しいことをあえて言ってくれる人をメンターにしなさいとも言われました.

 さらにいいメンターに出会うために,自分自身がメンターになってメンタリングの経験を積むことを勧められました.レジデントでも,医学部生のメンターとして,プロジェクトを進めたり,進路相談にのることはできます.それはメンタリング経験として履歴書にも書けるのだそうです.自分がメンターとしてぴったりではないときに,ふさわしい人を紹介する,つまり「人と人をつなげる」のもメンタリングの一つだそうです.「この人と会っておくといい」と,すぐにその場で電話をしたりしてくれる場面に何回か出くわしたことがあります.最初は面食らいましたが,本当にありがたいことです.

 Kアワードといわれる若手研究者育成のグラントを獲得するためには,月に何回メンターと面談し,どんなアドバイスを受けたつもりかなどと事細かにメンターとメンティー(指導される側)との関係を記述する必要があります.ここでは,メンターの過去の実績も選考の基準になります.グラントを投資と考えれば,「いいメンターがついているか否か」は当然の基準とも言えます.一方で「いいメンターがいない」というのは,伸び悩む若手の言い訳としても使われます.

 いろいろとメンターについて書いてきましたが,なんのことはない日本で言う「師匠」みたいなもんでしょうか.「公私ともどもにお世話になった」とは,日本でもよく使われる枕言葉です.メンター,「師匠」探しも大切ですが,自分がメンターになることもできるはずです.あなたの周りにメンティー,「弟子」になってくれる人がいないか,「弟子」探しもしてみませんか?

 「教え上手」になることで,「教えられ上手」にもなれるはずです.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.