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●研修おたく海を渡る

第44回テーマ

契約更改

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


この間facultyになって初めての契約更改がありました.レジデントの時は「次の年のポジションを年収○○$で与えます.acceptするかしないか,サインしなさい」といった一枚の紙が連絡箱に入っていただけだったので,今回は少し緊張しました.病院によっては,Start up packageといって,“自分の診療/研究体制をとにかく3年間で作り上げなさい”という仕組みもあるのですが,僕のところは毎年の更新です.

臨床中心のClinical Facultyは,うちの部署では以下の基準で評価されます.それぞれの項目について,「だめ」「まぁまぁ」「できた」「よくできた」「すごくよくできた」と5段階の自己評価を事前に行います.

1. 臨床試験に登録した患者の数
2. 入院/外来で診た患者数と,請求額と回収率
3. 学生,レジデント教育とその評価
4. 書いた論文の数,学会発表
5. 自分のアイデアではじめた臨床試験
6. 研究(基礎,臨床を問わず)資金の獲得
7. 大学内,地域,州,連邦レベルでの委員会などを含めた貢献度

臨床試験への登録数を評価対象としているのは,補助金のためだけではありません.NCI(National Cancer Institute)指定がんセンターとして,臨床試験に貢献するという意味でも重要なのです.

診た患者数と,売り上げが評価されると聞いてはいましたが,請求額に対して,その回収率も提示されるのです.しかも僕の回収率はといえば,3分の1以下だったのには驚きました.それに対してビジネスマネジャーが,「頭頸部癌の患者は無保険やメディケイドといった支払い能力の低い人が多いから,しょうがないね」と,ひとこと言っただけです.担当患者の保険の内訳も円グラフで示されているからでしょうか.骨髄移植は保険がある人にしか行わないので,その請求回収率は100%に近いそうです.

学生/レジデントからの評価は,どんなものか期待していたのですが,評価がひどくなければあえて上まであがってこないそうで,なんだか拍子抜けでした.

もともと評価には入っていませんが,患者さんからの評価はPress Ganeyという外部団体が委託されており,いいコメントがあると報告されます.

論文はClinical Facultyでも,年に一つは形にするようにとのこと.学会発表は,論文には数えられませんが,一応評価の対象になるようです.

次の2つは同じようなものです.要するに自分のアイデアを製薬会社に気に入ってもらい始めることができた臨床試験や,グラントをとれば,デパートメントにお金が入ってくるのです.これが多くなればなるほど,研究に費やせる時間が多くなります.僕はといえば,グラントはまだなく,臨床70%,研究/教育/その他が30%というところです.

最後は,院内での治験プロトコール委員会や,治験データ安全管理委員会(Data Safety Monitor Board)や,緩和医療委員会,レジデント選抜委員会などへの,貢献度が測られます.地域でのレクチャーも含まれます.ぼくは小学校で,「口,のど,首の癌」のお話をしました.

一通りおさらいした後に,「ボスからの評価」としてちょこちょことチェックして終わりでした.来年度の到達目標も,がんばって書いたのに,字が汚かったのか,「これ読まなくていい?」とそのままビジネスマネジャーに渡してしまいました.「今年と大筋に違いはないけど,インセンティブの割合が増えたから…….ここにサインして」と,確認する間もなくサインをさせられてしまいました.「こんなもんなの?」と聞くと,「彼はこういったミーティングが好きじゃないからね」生まれて初めての契約更改は10分程度であっさり終わりました.まぁボスによるのだと思いますが.プロ野球の契約更改をイメージしていたのに…….そんなわけないか.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学で内科レジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.