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●研修おたく海を渡る

第41回テーマ

新米指導医の生活-小グループ学習

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


「担当者が足りません」とのお誘いメールに反応して,医学部2年生の,春学期の病歴聴取コースを担当することになりました.内科スタッフだけでなく,後期研修医であるフェローまで動員してのコースです.人が足りないなんて,あんまり教育熱心ちゃうんかなぁと思ったのですが,それもそのはずです.学生を2人ずつに分けて,3週間に1回,2時間の実習が開かれるのですが,一学年を160人として,延べ80人の教官がいるのです.いろいろな曜日と時間帯のオプションがあり,教官は自分のスケジュールにあったものを選べます.

実習では,了解の得られた入院患者を,学生は毎回1人ずつ割り当てられます.セッション前に患者に会い,60分ほどかけて病歴と身体所見をとったうえで,簡単なアセスメントとプランを立てるのです.学生は,あとからカルテを見ることは許されていますが,基本的には患者から話を聞くことだけでプランを立てるのです.

担当教官は,もちろん事前にカルテを見ることができます.一応,一通り目を通しておいて,乳癌の患者だから,あるいは心不全の患者だから,今日はこのポイントを覚えてもらおうと作戦を練りながら,グループ学習に臨むのです.

学生には,入院になった理由から,病気の診断に至った経緯は当然のことですが,既往歴,嗜好歴,社会背景,家族歴,処方されている薬剤も,オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを混ぜながら,くまなく聞いてもらいます.またReview of Systemと呼ばれる臓器システム別に症状を聞いていくことは,もれなく鑑別疾患を並べるうえで非常に大切です.その後,身体所見をとってもらうのですが,「鑑別を頭に浮かべながら,しかも先入観にとらわれずに診察するように」と,神業のようなことが,ハンドブックには書かれています.

その後,教官1人,学生2人の3人で集まってプレゼンをするのです.プレゼンする学生には,ただ羅列するだけでなく,自分のストーリーをつくりながら,陽性所見だけでなく,陰性所見も挙げてもらいます.「なんでそれ聞いたの?」というつっこみにも耐えられるように,できるだけ理由付けをする習慣をつけてもらいます.聞いている学生も,自分で鑑別を考えながら,発表している学生に「これは? あれは?」と質問を投げかけます.

学生にとっては,初めて実際の患者さんと接する病院実習への導入のようなグループ学習です.僕が強調しているのは,いっぺんで完璧にしなくてもいいということです.前述したようなすべてを一回の問診で網羅なんかしたら,医療者側だけでなく患者も疲れてしまいます.僕が患者だったら,もう協力したくなくなるかもしれません.振り返りながら,「あっこれ聞き忘れた」とか「これも大事かもしれない」と思ったらその時に,もう一度部屋を訪れて聞くことを勧めています.こうしたことをシャトルサービスのように繰り返すことで,患者とのラポール(信頼関係)が築かれていくと考えるからです.ただあまりに短時間に頻回だと「物忘れの多いやつだ」と思われてしまうので,要注意です.

毎回の実習後,48時間以内にレポートの提出が義務になっています.僕の仕事といえば,メールで送られてきたレポートを添削してスキャンして,またメールで送り返すことです.個人的な背景にさらっとでも触れているレポートが,僕は好きです.そこには,“Good Job!”とか“I like this comment!”といったコメントをつけるようにしています.もう少し突っ込んで欲しいところには,“Please provide reasons behind your thought.”なんてコメントもします.さらにレポートに加えて,担当した患者の病気について,概略をつかんでもらうため,次のセッションで3分レクチャーをしてもらいます.まだ2年生ながら,しっかりと簡潔にまとめてくるので,感心させられることしきりです.もう1つの僕の仕事は,毎回の学生に対する評価を,教務にFAXすることです.僕の採点は,たぶん甘めだと思います.といっても,他の人の採点基準は知らないのですが…….


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.