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●研修おたく海を渡る

第40回テーマ

新米指導医の生活-教育ポイントサービス?

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


フェローシップを修了し指導医になって,あっという間に半年以上が経ちました.“Baby faculty(ひよっこ指導医)”とか“Super fellow(フェローのように扱われる指導医)”といわれながらもなんとかやっています.もとはといえば「研修おたく」として海を渡った自分です.教育への興味はまだ失ってはいません.これから何回かに分けて,教育システムを含めた指導医の生活を紹介したいと思います.

今回は,うちの大学で新たな試みとして,ここ数年行われている“Educational value units(EVUs)”という教育ポイント制度をとりあげます.これは,医師の生産性を評価するために1980年代に使われ始めた“Relative value units(RVUs)”にならった方法だそうです.毎月,RVUレポートが,僕も含めて一人ひとりのスタッフ医師に送られてきます.このRVUについては,またどこかで紹介したいと思います.

最近は日本でも取り入れられているようですが,指導医として,学生,レジデントを評価するだけでなく,逆に彼らからも指導力を評価されるのでいい加減な教育はできません.教育を評価するのは簡単ではなく,また学習者からの評価だけでは,なかなか教える側のインセンティブにもならないようです.スタッフの評価対象は,やはりアメリカでも大学病院では1に研究,2に臨床,そのあとに教育と続くようです.「教えるのは好きで,情熱・エネルギーを使い,学生からの評判もいいのに,なかなか評価につながらない」というのは,古今東西,同じなのかもしれません.教育は評価のしづらい領域,がんばっても報われにくい分野なのでしょうか.

それを払拭するために,僕のいるサウスカロライナ医科大学では,教育にかかわると(EVU)ポイントがもらえる制度を数年前から採用しています.まるで家電量販店のポイントサービスのようですが,学生教育を担当する事務の人によると,全米でも新しい画期的な試みだそうです.

では,どうやってポイントを稼ぐのでしょうか.学生グループ学習のファシリテーターをしたり,講義をすると,時間数に応じて,EVUがもらえます.レジデントのモーニングレポートに参加したりするとさらにポイントがたまります.勧誘の時期には,医学部応募者や,レジデント志願者の面接官を担当してもポイントがたまるのです.「医学部2回生の秋学期の身体所見コースの講師が足りません」とか「レジデント選考のインタビュアーが足りません」というメールがしょっちゅうきます.そして依頼文のあとには,必ず「協力ができる人は至急連絡をください.もちろんEVUがたまります」との誘い文句が続きます.僕もそのポイント制度につられて,小グループ学習を担当したり,面接官をしています.お誘いメールと,ついてくるポイントがなければ,たぶんパスしていたと思います.効果てきめんですね.

おもしろいことに,このポイントは年度末の個人の評価として使われるだけでありません.例えば内科のなかでも,専門科ごとの稼いだポイント数で貢献順位が発表されます.「腫瘍内科は,○○ポイントだけ教育に貢献してくれたので,その分予算を多めに回します」といったように各専門科医局にとっても,教育に取り組むインセンティブになっているのです.システムとしてはまだ新しく,ポイントをどう振り分け,重み付けするのか,不公平なく個人を評価したり,予算を各科に配分するための試行錯誤がなされている段階だとも聞きました.

僕自身もこのポイントをためたところでどんな特典が得られるのか,全くの研究不足です.ためたポイントが,いったいどういう評価につながるか,興味津々ですが恐ろしくもあります.これについては,また年度末に詳しく報告させてください.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,サウスカロライナ医科大学で血液/腫瘍内科のフェローシップを修了.2008年7月より,同大Assistant Professor.米国腫瘍内科専門医.