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●研修おたく海を渡る

第31回テーマ

がんプロ(2)
ひとり勉強法

白井敬祐(サウスカロライナ医科大学)


 血液・腫瘍内科のフェローシップを修了すると,初めて血液内科と腫瘍内科の専門医試験「ボード」の受験資格が与えられます.僕も,この10月に施行されるボードに向けて,同僚と勉強会を開いたり,ひとりでひまを見つけては対策を練っています.「がんプロ」になるには,どんな手段があるのかいろいろな学習法を紹介したいと思います.

 手っ取り早く今のスタンダードを知るには,NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインがいいでしょう.インターネット上でほぼ主要な癌の治療方針が,こと細かく記載されています.

 とかくEBM(evidence based medicine)が強調される昨今ですが,確固たるエビデンスがない分野もまだまだたくさんあります.「エビデンスがない」=「治療法がない」というわけではありません.目の前の患者を相手に,治療放棄はできません.そこをカバーするために,expert opinionという形で,その道のプロたちの意見が反映されています.さらにそのなかでも,コンセンサスが得られたものと,コンセンサスは得られなかったが現時点で妥当だと思われるもの,コンセンサスに全く至らなかったものに分類されています.

 すごいのは,それぞれのパネルのメンバーが年に数回集まり,ガイドラインの見直しを行っている点だと思われます.毎年,春に開かれるNCCNの総会では,ガイドラインの見直しに至った経緯あるいは変更には至らなかった理由をふくめて,注目すべき点が紹介されます.

 ただ,こういったガイドラインに飛びつく学習法は邪道で危険だと危惧する指導医もいます.実はこのNCCNのガイドラインにも最後には,引用文献のリストがついているだけでなく,おすすめ文献のリストまでついているのですが,なかなかそこまではたどり着かないのが正直なところです.ガイドラインのフローチャートではうかがい知れない,そこに至った経緯,「歴史」が大事なのです.

 その歴史を知るために,僕の指導医が口を酸っぱくして勧めるのは,臨床治験のプロトコールのバックグラウンドを読むことです.そこには,治療法の変遷と,治験の行われる理由がわかりやすく書かれているからです.時には100ページ近くにわたるプロトコールです.ともすると敬遠しがちですが,これはかなり効率のいい勉強法だと最近実感するようになりました.

 そのほかには,たくさん送られてくるレビューを中心に載せた雑誌があります.代表的なものには,「Oncology」,「The Oncologist」,「The American Jounal of Oncology Review」といったものがあります.個々のレビューにはタイトルが上手につけられており,思わず読んでみたくなるものが多いです.僕はまだまだ英語を読むのが遅く,次々と送られてくる雑誌に圧倒されて積ん読(つんどく)に終わっているのが現状ですが…….タイトルしか読んでないのに,積ん読のもたらしてくれる安心感は絶大です.

 今回だけでは「ひとり勉強法」を紹介しきれませんでした.次回は,そのほかの業界の新聞やインターネット,podcastを使ったひとり勉強法,学会情報などをアップデートする方法を紹介します.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.