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●研修おたく海を渡る

第29回テーマ

グループ診療

白井敬祐


 腫瘍内科医は,アメリカでは売り手市場のようです.50~60代のオンコロジストが多く,順次リタイアするため,絶対的な不足になると全国紙でも取り上げられています.アメリカの開業医は,外来だけでなく,必要であれば契約した病院に主治医として患者を入院させて管理したりもします.前回でも少し触れたように,オフィスで外来をしつつ,入院患者の回診もするのです.

 今でもソロプラクティスといって,一人で開業している人もいますが,グループ開業といって気の合ったパートナーを見つけて3~5人ぐらいで開業するパターンが多いように思います.大きなグループになると20数人,あるいはさらにそれを大きくして,全国チェーンのグループもあります.今回は,私の知るある大規模グループについて紹介してみたいと思います.

 なんといってもメリットは抗がん剤のバイイングパワーです.一度にたくさん注文することで仕入れ値を下げることができるのです.全米中に薬を出荷する独自の配送センターまで持つのです.

 自分でいろいろなことをコントロールしたいという自由度は減りますが,雇われ医師として働くことで経理などを気にしなくてよい点は,大きな魅力にもなっているようです.事務員,薬剤師,看護師などのスタッフのみならず,放射線治療医などのかかわりの深い医師のリクルートまで,グループ本部がサポートしてくれます.

 ころころ変わる保険制度とこれまた動きのある抗がん剤の仕入れ価格をチェックするプロもいます.reimbursement(保険会社あるいはメディケア,メディケイドといった国のシステムからの払い戻し額)に準じたお勧め抗がん剤の組み合わせをアドバイスしてくれるそうです.ぶっちゃけた話,この組み合わせだといくら利益があがるというのを,具体的に教えてくれるのです.医療行為にはもちろん幅があります.利益が少ないだけならいいのですが,保険会社からreimbursementが支払われなければ,いくらFDAで認められていても治療すればするほど,持ち出しになるという事態も起こりえます.大事な点は,理(利?)にかなった組み合わせをforce(強制)するのでなく,guideしてくれる体制なのだと,そのグループに属する医師は言っていました.

 さらにこのグループでは臨床治験も盛んです.グループで臨床治験コーディネーターを雇ったりするだけではありません.治験のプロトコールを書いたり,既存の治験にグループとして参加するかを吟味する医師を著名ながんセンターから引き抜いてグループのアドバイザーとしています.日々の臨床に従事しながら,一方で将来のエビデンスづくりにも参加できるという医師の知的好奇心,あるいは医学に貢献したいという気持ちを満たしてくれる開業グループでもあるのです.

 医師のみならず,「臨床治験の数をそろえる」というのは,患者にとっても治療の選択肢が広がるという意味で大きな宣伝効果となります.めちゃめちゃ稼げるわけではないですが,開業医としての給料と,エビデンスをつくるというアカデミックな要素を兼ね備えた開業スタイルとして,全米各地に広がりつつあるようです.

 数人でのグループ開業から大きなグループに吸収される道を選んだ友人は,今までと比べてあまりにも裁量が限られていることに,「自分のアイデンティティは?」と考えてしまうこともあると言っていました.日本の現状に合うかどうかは別として,1つの開業スタイルとして紹介してみました.この大規模グループは極端な例ですが,気の合うそして信頼できる仲間とグループ開業というのはおもしろいかもしれません.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.