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●研修おたく海を渡る

第28回テーマ

契約書

白井敬祐


 前回の就職活動に続き,今回は契約について書いてみたいと思います.あくまで,腫瘍内科での話ですが…….

 2~3回の訪問で,お互いにうまくやっていけそうだと確認できると,勤務体系,収入や,医療過誤保険についてさらに突っ込んだ話が進みます.1人でやっているところに2人目として加わるのと,十数人抱える開業医グループに加わるのとでは,状況はずいぶん違ってきます.

 循環器やICU専門医とは異なり,血液/腫瘍内科医の場合には,スタッフになると基本的に病院での泊り込み当直はありません.グループで診ている患者さんが入院になった際に,自分自身が病院におもむいて入院オーダーをする形と,ホスピタリストと呼ばれる急性期の入院を担当する医師に基本的な管理を任せる形があります.

 アメリカでは主治医制といっても,夜,週末は当番医がカバーします.基本的には自宅待機ですが,例えば5人のグループであれば,5日に1回,週末の回診は5週ごとに1回,あるいは一週間ぶっ通しで5週に1回ずつ交代するパターンもあります.どういった形をとっているかも就職先を決めるうえで,大きな要素になります.回診でカバーする病院も,グループが契約する病院の数によって2,3から,十近くになる場合もあります.病院めぐりのためにドライブする時間のほうが,診察時間より長いなんていう,笑うに笑えない話もあります.

 契約時には,サインインボーナスといって,プロ野球選手の契約金のようなものがもらえる場合もあります.たいていは最初の数年間はグループに雇われる形で働くのですが,その後はグループの一員になる権利が与えられます.そうするとグループがもっている建物や,電子カルテシステム,治療設備に自分も投資することになります.これには,グループの名前,つまりその地域でのグループのもつブランド代も含まれるわけです.グループの代表権を得ると同時に,グループの資産を買い入れるわけです.その後の給料は最初の雇われ体制とは違い,自分が稼いだ分がそのまま自分のものとなります.もちろん事務員,看護師,薬剤師などの人件費,その他の必要経費はそこから取られます.

 もしグループを離れた場合にも細かな規定があります.もし辞めることがあった場合は,患者を奪われない(言葉が悪い?)ために,離職後,一定の期間(たいていは2~3年)はクリニックを中心として半径25~50マイル(40~80キロ)以内では臨床業務をしないという契約書にサインをさせられます.それを破った場合はグループが被る損害をカバーするために,離れる前年の稼ぎ高の1.5倍をグループに支払うということまで明記されています.大学病院の勤務契約書にもこれは含まれていました.

 医療過誤保険は,自分の給料から別に払う場合とグループで払う場合があります.またカバーされる期間が,そのグループに属する期間だけであるタイプ,あるいは期間中になされた診療行為であればグループから離れた後もカバーされるタイプなどと,いろいろなオプションがあります.

 いろいろ細かなことを書きましたが,こういったことにレジデントすべてが詳しいわけではありません.最終学年のレジデントを対象に,プロのコンサルタント,弁護士を招いて契約などを含めた開業準備の心構えについての説明会が,レジデンシープログラム主催で開かれます.

 裁判官を父親にもつ同級生が,「口約束ではなく紙に書いてもらい,契約書はサインする前にお金を払ってでも,弁護士に目を通してもらう.それが後悔しない秘訣だ」と教えてくれました.


白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医.