第26回テーマ
外来に臨む心構え
白井敬祐
外来で患者さんを診る前に,特別なことをされている方はいるでしょうか.今回は先日サンフランシスコで開かれた,がん治療医対象のカンファレンスで出会った先生について,書いてみたいと思います.天下のMDアンダーソンがんセンターにありながら,細分化された最先端治療をするわけではなく,がんをトータルに診る総合がん診療科(General
Oncology)を標榜するMichael Fisch先生です.彼が言うには,
- What's happening? (今,何が起こっているか?)
- What's going to happen? (これから,何が起こりそうか?)
- What can I do to help you? (どんな手助けができるか?)
を,外来で明らかにするのを目標にしているということです.もちろん一度ですべてがわからないこともあるそうですが,フォローアップでうまくいっているような状況でも,必ず3番目の「どんな手助けができるか?」の問いかけを忘れなければ,見逃しそうなことにも気づくことができ,患者の満足度も上がるのだと強調していました.
「ゴールを定め,それを患者と共有することが,信頼関係を気づくコツだ」「緩和医療であれば,What to palliate?(何を緩和するのか?)を,常に意識して確認していないと,緩和医療といいながら,なにもしていないという状態に陥ることもある」と彼は話します.
一方,外来では,時間の制約があるだけでなく,メディアやインターネットから患者のほうが情報を知っているかもしれない,あるいは,他の医師なら違う判断をするかもしれないというover
the shoulder pressureにも耐えながら臨床的判断を下さなければなりません.有意な差が出なかった第3相試験の結果を聞き,「今までやってきたことでよかったんだ」「これまで通りでいいんだ」とほっとしたりすることも正直あると,複雑な心情を吐露していました.
日々の診療には,やはりevidenceに基づいた判断が必要であり,そのためには活きたガイドライン(年に少なくとも数回は改訂される)がGeneral
Oncologistには,大きな助けになると言っていました.
時には,患者の揺れ動く感情の波にも向かい合わなくてはいけません.患者の感情に気づかないふりをするのではなく,感情を認め,感情の源を見つける努力をすることが必要だと.気づかれない感情の揺れが,患者,医者どちらにとっても一番の危険の元だと言っていました.ただし,その感情に賛成する必要はないし,またそれを感じなくてもいいと.感情の動きがあることを認識し,“患者に寄り添いながら(stay
with patient)”,それに対処する方法をさがせばいいと.
「そんなに簡単なことだとは思えませんが……」と質問すると,彼は,「だから僕は,野球の試合に向かう大リーガーのように外来の1日を過ごそうとしているんだ」と,「打席に立つように毎回,心の準備をし,先ほどの3つの質問に備える」「野球が1回から9回まであるように,どこかで流れが変わることもある.それを楽しみながらね」と.
最後に“Use yourself as an instrument.”とアドバイスをもらうことができました.外科医でもない自分を“道具”のように使うとは? “楽器(instrument)”のように使ってハーモニーを引き出すということでしょうか? はたして僕が“楽器”になれる日は来るのでしょうか?
白井敬祐
1997年京大卒.横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする.2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical
University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow).米国内科認定医。
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