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●研修おたく海を渡る

第17回テーマ

相思相愛

白井敬祐


 3回続けてがん診療について書こうとも思ったのですが,今(2007年2月)は,レジデント,フェロー採用時期の真っ最中です。今回はリクルートする側から書いてみます。

 プログラムに合った人を採るために,どのプログラムも採用に時間と労力をかなりさきます。プログラムコーディネーターと呼ばれる専属の秘書さんが,採用したレジデントの世話から,リクルート活動まで担当するのです。ERASというオンラインのシステムが導入されるようになり,紙を扱う煩雑さは減ったものの,統一の願書をクリックひとつで(お金さえ払えば)どのプログラムにも応募できるので,応募者数は増える傾向にあり,まだまだ面倒なようです。

 プログラムディレクターは,原則的にすべての願書に目を通しますが,これは大変なことだと思います。僕のいるプログラムは,1学年に3人という腫瘍内科としては,ごく平均的なサイズのプログラムなのですが,そこに毎年,300~400人の応募があり30~40人を面接に呼んでいます。当然,ディレクターは面接で志願者に会いますが,その他の面接官つまり指導医が誰になるかは,時の運です。相性の良し悪しも大きく関係してくると思われます。

 先日も,リサーチのこと,自分のことをひたすら話して,面接官に質問をする隙を与えなかった強者がいたと……。いくら実績があってもこうなると,相手の気持ちがわからない,コミュニケーションがとれない人とみなされてしまいます。「もし今年,腫瘍内科のプログラムに入れなかったらどうするか?」というような質問も使われます。「やはり腫瘍内科に進みたいから,もう一度チャレンジする」ぐらいの意気込みを求めているようです。

 僕らのプログラムディレクターは“Hospitality”を採用過程におけるテーマにしています。“Hospitality”を感じてもらうために,面接の日の朝,フェローがホテルまで志願者を迎えに行き,ランチも,指導医抜きで病院の外で食べます。そこで休暇の話,当直の体制とか,面接官に聞きにくいこと,本当に聞きたいことを聞いてもらえる場を用意しています。僕らもかなり正直に,何が足りないか,どうしたいと思っているかを含めて,オープンに話します。納得して入ってきてもらわないと「一緒に働くときに困る」からです。こうした接点から得られるフェローの意見も考慮されます。僕らとしては,「一緒に働きたいかどうか?」が一番大事なポイントになります。

 うちのプログラムの評価表には,

 (1)今すぐにでも採用する
 (2)採用してもいいので,最終選考にいれる
 (3)他の志願者をもう少しみたい
 (4)採用しないほうがいい
のチェックリストに,さらに自由なコメント欄がついています。

 これらの情報をもとに,指導医会議が開かれ,マッチングのランク付けが行われます。これにレジデントやフェローが参加するところもあるようですが,僕はまだ参加したことはありません。聞いたところによると,顔写真付きの名札が,ランク順に並べられコメントによって上がり下がりすることもあるそうです。

 マッチングがうまくいって相思相愛になれたときに,病院のツアーをした回数に応じて,つまりどれだけリクルートに貢献したかで,レジデントにスターバックスのプリペイドカードが配られたこともありました。5回以上なら25$,3回以上なら10$,1~2回なら5$といったようにです。相思相愛をめざして,応募者はもちろん,採用側も大変なのです。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。