HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻1号(2007年1月号) > 連載●研修おたく海を渡る
●研修おたく海を渡る

第13回テーマ

ボード-生涯勉強!

白井敬祐


 今回はボードと呼ばれる専門医試験制度について,記憶の新しいうちに書きとめさせてください。レジデンシー修了が受験の条件で,それ以降内科の場合は10年に一回の更新が必要です。

 レジデンシー最終学年になる少し前から,MKSAP(http://www.acponline.org/catalog/
mksap/14/
)あるいはMEDSTUDY(http://www.medstudy.com/s.nl/sc.2/.f)といった対策本を多くのレジデントが買い求めます。実はボードがなくても臨床はできるのですが,Eligible(ボードを取る資格がある)とCertified(ボードを取った)では,就職先に制限が出てくるので,みんなかなりまじめに勉強します。図書館でひまを見つけて,せっせと問題集を解くのです。モーニングレポートの一部をこれらの問題を解くのに当てたり,勤務が終わった夕方に指導医にボランティアで問題集の解説をしてもらったりもしました。内科学会のホームページには,ボードの勉強法として,3~4人といった少人数での定期的な勉強会が勧められていました。それに従い,友人とつるんで,夜中にスターバックスで勉強会を開いたのもいい思い出です。

 そのほかにも,ボードレビューと呼ばれる短期講習会がハーバード,メイヨークリニックや各地の大学で開かれます。毎年,かなりの数の人が更新するので需要があるのでしょう。予備校の直前講習を受けるようなものでしょうか。試験さえ通ればいいので,必ずしも講習会を受ける必要はないのですが,短期間で,ポイントを押さえたアップデートができるため,受講料が高くても人気はあるようです。更新のために受講した指導医も,話はうまく,よくまとまっていて損はなかったと言っていました。

 それらの講習会を,DVDにしたものも出回っています。このDVDはなかなかお勧めです。循環器,腎臓,感染症,総合内科などの各分野の専門家が,内科医として知っておきたいこと,また最近の流れを語ってくれます。もちろん講師によって,話の上手い下手があったり,「スニーカーで古釘を踏んだら,緑膿菌!」ともろに試験対策的なところもあります。ただテンポのいい話を,好きなときに好きなだけ,流しっぱなし,つまみ食いできるのはDVDのいいところです。

 こうした準備を進めながら,僕はペーパーテスト最後の年となった2005年にアトランタで受験しました。巨大な見本市会場に,数百人集められ,2日間にわたって試験を受けました。久々の長丁場の試験,飛行機代をケチって,チャールストンからアトランタまで片道6時間ドライブしたことを後悔しました。「また来年,1000ドル払って受験したらええわ。」と弱気にもなりました。結局,その年の内科のボードは,全米で8715人が受験し81%が合格したようです。ちなみに2006年からは内科のボードは,1日になり,コンピュータでの試験に変わっています。試験もあちこちで受けることができるようになりました。

 ボードの更新制度ができたのは,アメリカでも10数年前のことです。更新制度ができる前にボードを取った人は更新の必要がありません。それなのに70歳を超えても,ただ自分の力試しのために数年に一回ボードに挑戦している指導医がいました。廊下でMKSAPを片手に歩いているその先生を見ると,「生涯勉強!」と感心させられます。フェロー修了後に待っている血液内科と腫瘍内科の2つのボードに戦々恐々としている僕にはまだまだ遠い境地です。


白井敬祐
1997年京大卒。横須賀米海軍病院に始まり,麻生飯塚病院,札幌がんセンターと転々と研修をする。2002年ついに渡米に成功,ピッツバーグ大学でレジデンシー修了,2005年7月よりサウスカロライナ州チャールストンで血液/腫瘍内科のフェローシップを始める(Medical University of South Carolina Hematology/Oncology Fellow)。米国内科認定医。