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●病理との付き合い方


連載を終えるにあたり
-読者,特に研修医のみなさんへ

執筆者を代表して
下 正宗(東葛病院臨床病理科・検査科)


 本稿をもって「病理との付き合い方-病理医からのメッセージ(総論)および明日から使える病理の基本(臓器別各論)」の連載は終了する。『medicina』が若手の臨床医や研修医を読者対象として編集されているということで,臨床経験が少ない方々に向けて,病理診断が日常診療のなかでどのように活用されるべきかということを,病理医の視点で記載してきた。

 病理医がどのような業務をしているか,病理検査室の業務内容,病理検査を支える技術的な背景,病理検査を実施する際の臨床側の注意事項について,このシリーズを読めば,その全容がほぼ理解できるようになっている。

 医学教育は今,大きく変革期を迎えている。卒前教育においては,解剖→病理→臨床医学というような「段階的」古典的なカリキュラムから統合型カリキュラム,必ず学ばなければならないコアカリキュラムの設定とエレクティブの増加など,医学情報を伝達していく形式から学習者自らがそれぞれの学習スタイルに応じて学び,それに必要な情報を提供する方向に変わってきている。コアカリキュラムのなかでは,病理診断学は要の役割を果たしている。

 2006年8月20日に日本医科大学において,日本病理学会主催の「若手病理医育成のためのワークショップ」が大学,臨床研修病院関係者のほかに医学生も参加して開催された。この場で,学生から『「病理学の講義」では病理への興味はわかないが,「ポリクリ」や「病院実習」での病理は非常に興味をそそるもの』という指摘があった。学問としての病理学も重要であるが,医学生にとっては,日常診療にとってはなくてはならない臨床医学に直結した病理診断学が魅力的にみえているのであろう。医療現場での病理医の活躍が,医学生に新たなロールモデルを提供しているのである。その意味では,本シリーズの後半部分の臓器別各論は,病理診断学の醍醐味を十分伝えられる内容になっていると思う。なお,このワークショップのプロダクトは,日本病理学会のホームページ(http://jsp.umin.ac.jp)に掲載する予定である。病理学を社会にどのようにアピールしていくかについての提案がなされている。ぜひ一度,アクセスしていただきたい。

 卒後教育においては,2004年4月より新医師臨床研修制度が始まった。この制度のなかで特筆すべきは,CPC(clinicopathological conference)レポートが必修となったことである。亡くなられた症例を解剖することによりその病態を明らかにしていく作業がCPCであるが,これまでは,研修する科によりこの経験をほとんど積むことができない医師が存在していた。しかし,新制度では,将来どの科を選択しようとしても,臨床医となる医師はCPCを経験しなくてはならなくなった。CPCは病理医が前面にたった教育方略である。すなわち,今後はすべての臨床医は一生のうち一度は病理医の指導を受けることになったのである。研修医のみなさんはこのチャンスを生かし,第一線の病理診断学を学んでほしい。また,教育という視点だけでなく,医療監査という視点でも積極的に剖検を行っていくという姿勢を養ってほしい。

 本シリーズの執筆者の多くは,各施設の中堅あるいは業務の中心を担っている病理医である。各臨床研修カリキュラムを統括する研修管理委員会にも委員として参加し,臨床研修にも熱心に取り組んでいるメンバーもいる。第一線病理医からのメッセージとして本シリーズの内容を活用し,病理医と良いチームワークを組んでよりよい医療を提供していくスタッフとして成長してもらいたい。