HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻1号(2007年1月号) > 連載●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】
●病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】

第12回テーマ(最終回)

乳腺

秋山 太(癌研究会癌研究所病理部)


 乳癌は急増しており,女性で最も多い癌である。内科領域ではなじみの薄い癌であると思われるが,薬物療法という点において腫瘍内科医との接点がある。乳癌の薬物療法には,進行・再発乳癌に対する薬物療法,術後薬物療法,術前薬物療法,手術を前提としない薬物療法があるが,本稿では術後と術前薬物療法の病理診断のポイントについて述べ,病理医の役割を紹介する。

■術後薬物療法と病理診断

 手術標本での病理診断により,術後薬物療法の治療方針が決定される。病理診断が非常に重要であるということであるが,その一例として乳癌術後薬物療法の指針を提唱するSt. Gallenでのコンセンサス会議で2005年に提示されたrisk categoriesを紹介する。これを簡単にまとめたものを表1に示すが,内分泌反応性の評価と再発リスクの評価の2本立てになっており,内分泌反応性はホルモンレセプター(ER/PgR)により,再発リスクは,(1)腋窩リンパ節転移,(2)病理学的腫瘍径,(3)核グレード,(4)腫瘍周囲脈管浸潤,(5)HER2/neu,(6)年齢という因子により評価される。臨床的因子は年齢だけである。

1. 内分泌反応性の評価-ホルモンレセプター(ER/PgR)

 図1に示すように,免疫染色ではホルモンレセプター(ER/PgR)は核が染色される。その判定基準は,(1)判定部位は間質浸潤と乳管内成分の両方合わせて全体で何%染まっているかで判定する。(2)質の診断基準については,わずかでも染色がみられれば陽性と評価する。(3)量の診断については,陽性細胞が癌細胞全体の10%以上存在すれば陽性と判定する。陽性細胞の割合と染色強度によりホルモンレセプターを評価する方法として,Allred scoreが有名である。

2. 再発リスクの評価

1) 核グレード
 St. Gallenでは1と2~3に分類されているが,その分類方法については指定されていない。日本では『乳癌取扱い規約,第15版』に核グレード分類(表2)が掲載され,核異型スコアと核分裂像スコアによって評価し,その合算したスコアによって2,3点はGrade1,4点ではGrade2,5,6点ではGrade3と判定される。浸潤性乳管癌の核グレード分類に用いられるもので,特殊型には核グレード分類は行わない。図2は同じ倍率での充実腺管癌の組織像である。図2aはNG1のおとなしいタイプの充実腺管癌で,図2bはNG3の非常に異型の強い充実腺管癌である。組織型により大まかな傾向があるが,同じ組織型のなかでもこのように核グレードが異なる癌があることを認識することが大切である。

(つづきは本誌をご覧ください)