●内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応 | |||||||||||||||||||
第5回 神経症と心身症 中尾睦宏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学・心療内科) 本特集も折り返し点に差しかかった。これまで,主要なメンタルヘルスプロブレムとして「うつ」と「不安」に着目し,うつ病(またはうつ状態),不眠,不安障害(パニック障害,社会不安障害)への対応について整理してきた。今回は神経症と心身症という2つの病態について考えてみる。どちらも心身の不調を前面にして内科を受診することが多いが,その病態は異なるので注意したい。 神経症の考え方神経症は18世紀の後半にはじめて提唱された。俗にノイローゼと呼ばれることがある。最初は「神経系の病気全体」に対して用いられていたが,のちに「器質的な変化のない病気」ととらえるようになった。ところが医学が進歩して器質的病態が次々と明らかになるとともに,神経症の概念は「心理的な病気」を意味するものへと変わっていった。20世紀に入ると,フロイトが有名な神経症理論を提唱し,ヒステリー,神経衰弱,不安神経症,強迫神経症,抑うつ神経症といった病名が臨床で広く用いられるようになった。このように神経症の考え方は歴史的に変わり続けたため,なかなか定着しなかった。さらに「心因性」を重視して分類したため,一般臨床家には診断を下しにくい病名となってしまった。その反省もあり,神経症という病名は現在改変・撤廃の方向に進んでいる。 例えば本特集でたびたび紹介している米国精神医学会の疾患分類DSM-IV-TRにおいては,もはや神経症という病名は使われていない。精神障害を理解するのに特定の理論的枠組みを用いず症状ベースで捉えることを原則としているからである。 またICD-10においては,神経症を「神経症性障害(neurotic disorders)」という病名に変更し,「神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」(F40-48)というひとまとめのカテゴリーになった(表1)。このカテゴリーのうち神経症性障害に対応する病名としては「恐怖症性不安障害(F40)」,「他の不安障害(F41)」,「強迫性障害(F42)」がある。その大部分はDSM-IV-TRの不安障害と同じ診断区分である。ストレス関連障害には,「重度ストレス反応および適応障害(F43)」という病名が対応している。最後の身体表現性障害にはそのまま「身体表現性障害(F45)」という病名が対応している。「その他の神経症性障害(F48)」には神経衰弱(F48.0)という病名があるが,この用語は概念が曖昧なため最近はほとんど使われなくなった。
ちなみにこの「神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」(F40-48)というカテゴリーは,「精神および行動の障害」という大分類(Fカテゴリー全体)の中にある。Fカテゴリーには「神経性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」の他に,「気分(感情)障害(F30-39)」(いわゆるうつ病・うつ状態)や,「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群(F50-59)」(摂食障害も含まれる)といった分類がある。 (つづきは本誌をご覧ください) 文献1)上島国利(監修):精神科臨床ニューアプローチ3;神経性障害とストレス関連障害.メジカルビュー社,2005 2)中尾睦宏,久保木富房:心身症の定義とその病因.産科と婦人科 73:1677-1683,2006 3)中尾睦宏,久保木富房:卒後研修 身体疾患からみた精神疾患(2);神経症と心身症,ICD-10との係わりについて.Attending Eye 2:81-85,2006 4)中尾睦宏,野村忍,熊野宏昭・他:心身症と神経症の臨床的特徴;DSM-III-Rによる検討.心身医学 38:47-54,1998
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