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●成功率が上がる禁煙指導

第2回テーマ

禁煙指導を始めるに当たって院内の取り組み

安田雄司(医療法人啓生会やすだ医院/NPO法人京都禁煙推進研究会)


  前回では禁煙指導を始めるに当たって医師としての取り組みについて述べた.今回は禁煙指導に向けて院内での取り組みと工夫について述べてみる.

 まず,医療機関が禁煙指導を行っていることを院内の職員ならびに患者に知らせる必要がある.このことは今後禁煙指導を進めていくうえで院長(管理者)の考えを明確に打ち出す第一歩でもある.


■タバコに関する知識を
 披露する目的で「タバコの話」の
 勉強会を開いてみる

 少しは蓄えたタバコの知識を一般の方(患者)を対象に勉強会として披露してみる.強制とせずに院内職員にも可能なかぎり出席してもらう.私は定期的に健康教室を開いているが,「タバコの話」も適宜取り入れている.ここでの出席者はタバコ問題に興味がある方である.タバコの知識を披露するには最も適していて,素直に聞いてくれる方達であり,この方達にどれほどタバコに関する知識を伝授できるかである.出席者を飽きさせず,楽しませることが必要である.学会や研究会で得た一般向け資料などを使用してプレゼンテーションを作ってみるのも今後の禁煙指導に大いに役立つ.今まで診療中に説明していた断片的なタバコの話を,タバコに対する社会問題からタバコ病,さらには受動喫煙がもたらす身体への影響などについてシナリオを組み立てて,一つの流れとして話してみる.出席者に喫煙者が多そうなら禁煙の方法を簡単に話しておくのもよい.この場での雰囲気から判断して禁煙方法について具体的に話すのも良いが,出席している喫煙者がまだ禁煙しようとする意志が十分に整っていない状況では,なかなか禁煙成功にはもっていけない.その後,本格的な禁煙治療を希望して受診した際には,指導の内容が重複して新鮮味がなくなり,成功率が低くなる.このような健康教室では,私は喫煙者の禁煙への関心と意欲が高まるだけで良いと考えている.つまり,行動変容の無関心期から関心期にまで持って行ければ成功である(図1)1).すでに「呼気CO濃度測定器」を購入していたならそれも使ってみれば,出席者を楽しませることができるし,禁煙への意欲が増してくる.さらには話の最後に「タバコを吸わなかったらこんなに良いことがありますよ」という内容で締めくくることが重要である.喫煙の悪い話ばかりを聞かされると自棄を起こすことも多く,むしろ禁煙への期待感のほうが重要である.

 ここで話をすることはいわゆる禁煙治療に向けての予行演習である.さらには院内職員に対し「院内および敷地内禁煙化」に向けての整備を始動する.

■院内には患者の目の付く各所に
 禁煙を勧奨するポスターや
 パンフレットを

 健康増進法に基づき医療機関内が禁煙であることは当然である.本来なら不要であるが意識付けのために禁煙のマークを各所に貼付することは必要である.患者は待ち時間に限らず院内をきょろきょろ見回すことが多い.医療機関というものはリラックスする楽しい所でもないので,多少なりとも不安感があり,患者は院内の展示物や職員の動向に過剰に反応しやすい.その目に付く範囲内のあちこちに禁煙を勧奨するポスターや配付資料などがあると何らかの関心を引き起こすことになる(図2).実際に患者に禁煙を含めた生活指導をする際にも多少なりともタバコに関しての予備知識が入っていたほうが,禁煙指導を進めやすい.例えば,「あなたは慢性閉塞性肺疾患,最近ではCOPDとも言いますが,その病気なのです.見られたかもしれませんが,待合室に貼ってあったポスターの病気と同じなのです.これは典型的なタバコ病です.そのポスターにある患者さんのように酸素を吸わないと動けない状態になります.この病気の最初の治療は禁煙なのです」「糖尿病に高血圧があってタバコを吸っていると心筋梗塞は必至です.待合室のパンフレットでも図示しているようにタバコを吸った瞬間から血管が収縮して血流がなくなります.検査結果が出るまでもう一度ゆっくり見ておいてください」といった会話ができる.

■出入り口付近の灰皿や
 喫煙コーナー設置は
 医療機関の姿勢が疑われる

 一般に院内禁煙のために医療機関の出入り口周辺に喫煙コーナーや灰皿を設置するケースが多い.しかし,喫煙者というものはその灰皿の何m以内で吸わなければいけないのかという基準を持っていない.たとえコーナーを設営してもその外で吸ってしまう.出入り口に灰皿が設置されていた場合には,ほとんどの患者は喫煙者の煙を吸わされて院内に入ることになる.当院では気管支喘息やCOPDの受診者が多いために,玄関周囲の灰皿設置は医院の信頼だけでなく患者への症状増悪にかかわる重大な問題であった(図3).

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)松下 明:禁煙支援;禁煙する気のない患者をその気にさせるには.治療 87:1941-1946,2005


安田雄司
1981年滋賀医科大学医学部卒業.滋賀医科大学医学部附属病院研修医,同第2外科助手,ドイツエッセン・ルアーランドクリニック助手,京都桂病院呼吸器センター部長を経て,1998年1月京都市南区やすだ医院院長.現,医療法人啓生会理事長.NPO法人京都禁煙推進研究会理事.専門領域は外科,特に呼吸器外科・気管支鏡検査や細胞診を中心とした呼吸器診断.