HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻8号(2007年8月号) > 連載●外来研修医教育への招待
●外来研修医教育への招待

第8回

こんな場合はどうする?
その4

鄭 真徳(佐久総合病院 総合診療科)
川尻宏昭(名古屋大学医学部附属病院 在宅管理医療部 地域医療センター)


 前回までの3回にわたって,外来研修指導の実際的な方法を示しながら,「緊急性」「緊急性は高くないが,見逃してはいけない」「頻度」という3つの軸を意識することの重要性をお話ししてきました.実際に多様な訴えをもつ患者さんに対応する初診外来では,患者さんの問題解決を解決するために,これらの「軸」を利用する価値があると思います.また,研修医の先生方に「軸」を意識した問題解決法を身につけてもらうことは,外来研修の大きな目標の1つです.

 しかし前回の症例では,今までご紹介した「軸を利用した問題解決法」を利用しても,初診時のみの診察では,患者さんの問題解決に至りませんでした.今回は,「フォローアップ(時間軸を利用)することでの問題解決」ということについて研修医のみなさんに学んでもらおうと思います.まずはケースのおさらいをした後,初診終了後の振り返りカンファレンスの様子をながめてみましょう.


■ケース

45歳,男性
予診用紙:3カ月ほど前からときどき頭が痛い.市販の鎮痛薬を飲んでいたがよくならない.CTの検査をしてもらいたい.  研修医Aは病歴・身体所見より,「緊急性のある病態」や「緊急性は高くないが,見逃してはいけない疾患」は否定的と考えました.指導医とのディスカッション後に一緒に診察を行い,頻度の高い機能性頭痛について検討しましたが,診断には至らず2週間後に再診の予約を取ったのでした.

■振り返りカンファ

 初診の日の夕方に研修医Aと指導医は振り返りカンファレンスを行いました.その様子をみてみましょう.

指導医:A先生,今日の頭痛の患者さんについて相談しましょうか.
研修医A:よろしくお願いします.
指導医:この患者さんの頭痛の原因,病気の診断はどう考える?
研修医A:そうですね.緊急性のある病態は考えづらいし,今のところ脳腫瘍などの見逃してはいけない疾患も否定的です.先ほど頻度が高いと指摘された機能性頭痛もなんとなくいまひとつだし…….どう考えればいいんですかね.気のせいですか…….
指導医:「気のせい」か.そうだな…….ちょっと気になるんだけど,この患者さんはどうして今日受診したんだろう?
研修医A:どうしてって,頭痛がつらかったんだと思います.
指導医:そうか,そうだよな.それなら何でもっと早く来なかったのかな? 3カ月前からの症状で,今日初めて受診したんだよね.
研修医A:そうですね.そんなに痛みの強さが変わったわけでもないって言っていたので,多分長く続くことが心配だったんじゃないでしょうか.
指導医:そうかもしれないね.先生,それを患者さんに確認したの?
研修医A:いえ,そうご自身が言ったわけではないです…….
指導医:そうか,じゃあ,実際はどうか確認はしてないんだね.あと,患者さん自身は今回の頭痛の原因についてどう思っているのかな?
研修医A:それもしっかりとは聞いていませんでした.

指導医:どんな患者さんでもそうなんだけど,こういう患者さんでは,「受診動機」や「解釈モデル」を確認することが大切なんだよ.
研修医A:なるほど.でも先生,それを聞くことでこの患者さんの頭痛の原因がわかるんでしょうか…….
指導医:そうだね,それで原因がわかるとは限らない.ただ,診断をするための,あるいは今後この患者さんにどう対応してゆくかということの有用な情報になることはあるな.
研修医A:そうですか…….他には何か今回の頭痛の原因に迫れるような方法はないんでしょうか?

(つづきは本誌をご覧ください)


鄭 真徳
2001年群馬大学医学部卒業.同年佐久総合病院初期研修医.2年間の初期研修後,佐久総合病院総合診療科で3年間の後期研修を行う.2006年4月より総合診療科スタッフとして診療と研修医教育に携わっている.

川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒.同年,佐久総合病院初期研修医.2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務.2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修.その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事.2006年12月より現職.