HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻7号(2007年7月号) > 連載●外来研修医教育への招待
●外来研修医教育への招待

第7回

こんな場合はどうする?
その3

鄭 真徳(佐久総合病院総合診療科)
川尻宏昭(名古屋大学地域医療センター)


 前回・前々回と,初診外来を行ううえで重要な「軸」というキーワードを意識しつつ,それをいかに研修医に伝えてゆくか? ということを,ケースを用いた実際的な方法として示してきました。そしてこれまでに,「緊急性」と「緊急性は高くないが,見逃してはいけない」という2つの軸を提示してきました。多様な訴えをもつ患者さんを診なければならない初診外来において,これらの「軸」を意識することは,担当する医師にとって有用な考え方です。同時に,研修医の先生にもそのような考え方を身につけてもらうことは,外来研修の大きな目標の一つといえるでしょう。そしてこれを身につけることで,研修医の先生も,右往左往することが減るのではないでしょうか。それでは今回も「軸」を意識しながら,研修医教育の実際をみてみましょう。


ケース
予診用紙:33歳男性,Bさん
主訴:3週間続く咳
既往歴:特になし
希望の検査:未記入
体温37.0℃。


【例1】

研修医A:えーっと,頭痛の患者さんか。とりあえず脳血管障害と髄膜炎を除外して,神経学的所見に異常がなさそうなら,アセトアミノフェンでも出して様子みてもらうか。指導医の先生はみんな診察中だな。診察室は1つ空いてるし,外来も混んできたしな。まずみてみるか。
研修医A:Bさんはじめまして。研修医のAと申します。宜しくお願いします。今日は頭が痛いということですが,どんなようすでしょうか?
Bさん:いやあ,頭痛といってもたいしたものじゃなくて,ときどきずきんと痛むんですよ。前にもあったんですけど,最近多いもので。
研修医A:なるほど(あーよかった。緊急性はなさそうだ。もうちょっと話を聞いて一通り診察したら帰せそうだな)。

***

(診察を終えて)

研修医A:よーし,神経学的所見も異常なかったし,今日は対症的にアセトアミノフェンで様子みてもらおう。続くようならまた来てもらって,見逃してはいけない頭痛について精査すればいいかな。患者さんもぞくぞく来ているし,とりあえず指導医の先生に相談する必要もなさそうだから,次の患者さんを診るとしよう。さあ,がんばるぞー。

 いかがでしょうか。研修医Aはやる気のある先生のようで,頼もしいですね。「緊急性のある病気の除外」という点を強く意識して診察しているようです。そして,その後には,「見逃してはいけない疾患」ということも頭に浮かべていましたね。研修の効果が表れているようです。指導医にとっても,研修医が成長してゆくことが実感できるこのようなときは,うれしい瞬間ですね。しかしこのケース,この2つの軸からのアプローチで,患者さんの問題は解決できそうでしょうか? 指導医の皆さんならどうしますか? 実際の外来研修の流れ(参考1)を参考に,検討してみましょう。

参考1 外来研修の流れ
(1)予診用紙を研修医と一緒に見て,ショートディスカッション
(2)診察後の研修医プレゼンテーション(One minutes teacher)
(3)次の一手を検討
(4)一緒に診察室へ
(5)振り返りカンファ

(つづきは本誌をご覧ください)


鄭 真徳
2001年群馬大学医学部卒業。同年佐久総合病院初期研修医。2年間の初期研修後,佐久総合病院総合診療科で3年間の後期研修を行う。2006年4月より総合診療科スタッフとして診療と研修医教育に携わっている。

川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事。2006年12月より現職。