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●外来研修医教育への招待

第1回

ようこそ,外来研修医教育の現場へ

川尻宏昭(名古屋大学医学部附属病院・在宅管理医療部 地域医療センター)


 皆さん,はじめまして。そして,ようこそ外来研修医教育の現場へ。これから,日々外来での研修医教育に悪戦苦闘している私たちの現場に一緒に入りこんでいただこうと思います。

 新医師臨床研修制度が始まり,研修医を取り巻く環境も変化してきました。そして,これは研修を取り巻く環境というだけでなく,指導医,病院全体を取り巻く環境への変化ももたらしたようです。今回の「新医師臨床研修制度」は,「プライマリケア能力」ということがその到達目標として重要視されています。従来の研修医教育のなかで,必要とされつつも十分ではなかった外来研修も,「プライマリケア能力」の重要な一つとして今回の研修制度では必要となってきました。私も含め,数年?前の研修医たちは,「外来研修」といえば,「救急外来研修」がその主体であり,また,よく指導医から「入院患者もろくに診れないやつが外来など十年早い」といわれたものです。一方で,「入院患者さんが診られようになれば外来は大丈夫?」という疑問が私には湧きますが,その議論は今後の連載の課題にすることとして,とにかく,そんななかでの今回の研修医制度の変更は,「外来研修」のあり方を考えるという意味でも少なからぬ影響を及ぼしつつあるのではないかと感じています。今回,佐久総合病院における私たちの取り組みを紹介させていただき,皆さんと一緒に外来での研修医教育について考えてみたいと思います。


■私たちの外来研修について

 「なぜ研修医に外来をさせるようになったのですか?」「いつから行っているのですか?」「研修医に外来。大変でしょう……」とこんな質問?同情?を受けることがときどきあります。「私たちがなぜ,研修医に外来を行わせることにしたのか?」その答えになるかどうかは別として,私たちの現場に入りこんでいただくためにも,私たちの外来の成り立ちを少し説明させてください。

 まず,佐久総合病院の外来研修の場である総合外来が,どのようにして設立されたかを簡単に説明します。総合外来は,1997年の5月に設立されました。設立の目的(病院内での機能的役割)は表1をご参照ください。現在は,昼間の救急対応は,主に救急救命センターが行い,総合外来が協力することになっています。また,医療連携室ができ事務的なことはそちらにお願いするようになりました。

 読者の皆さんはお気づきと思いますが,当初から研修医教育を目的に挙げていました。もちろん,それまでにすでに佐久総合病院だけでなく,いくつかの病院や診療所では,外来研修を行ってきていますので,私たちが先進的に始めたものではありません。しかし,当初から私たちとしては,研修医の外来研修の必要性を感じていましたし,何とかしないといけないという思いがあったことは確かです。

 また,そのような前向きな考え方とは少し離れますが,外来を運営してゆくのにマンパワーとして研修医の力が必要であったことも事実です。そもそも,総合外来をつくるに至った背景は,専門分化が進むなかで問題がはっきりしない,あるいは特定しない患者さんを診ることの重要性と難しさがあり,また,いわゆるコモンディジーズや救急に対する対応を,今まではさまざまな医師が分担して行っていたものの,それが難しくなってきたということがありました。かといって,部署をつくればすぐにそのようなことができるわけはありません。まず,それを行えるスタッフが物理的にも質的にも多くは存在しません。そこで,考えたのは「研修医をうまく利用する」ということでした。研修医に一緒に参加してもらうことで,マンパワーを確保し,研修医にも研修というメリットを感じてもらおうという一石二鳥の考えです。

 佐久総合病院の総合外来および初期研修における外来研修の概略は表23にそれぞれ示します。外来研修を考えるうえで,それがどのような場(settingという意味)で行われているかはきわめて重要です。何かその点でご質問があれば,ご連絡ください。

■外来での研修医教育を行ってみて

 これまで,外来での研修医教育を行ってみて,感じていることがいくつかあります。「今回のポイント」にそれを示します。少し概念的な話ですが,今後この連載でそこに至った具体的なエピソードを示してゆきたいと思います。

1)外来と入院はやっぱり違う!

 入院診療と外来診療は,やはりいくつかの点で違います。診療が違うということは,そこで学ぶことも自ずと違います。

 まずは,時間。外来では,時間に対する意識が重要です。入院患者さんは,私たち医療者のフィールドにいます。だから,私たちの流れで患者さんに接することが可能です(決してそれがよいことだとは思いませんが……)。しかし,外来は入院に比べると患者さんのフィールドに近い場です。もっと近いのは在宅です。私たちは,文字通り「相手の土俵で相撲を取る」ことになります(それが在宅の醍醐味のひとつだと私は思っていますが……)。少し,それましたが,ここで強調したいことは,「外来では患者さんの状況・事情に合わせた対応」がより望まれるということです。そのなかで一番患者さんからの意見が多いのは「時間」についてです。ストレートに言えば「まだですか?」です。これは,お互いに非常にストレスです。外来研修を考えるうえで,この「時間に対する意識」は避けて通れません。一時は,この問題で「外来研修なんてもうやめてしまえ」と思ったこともありますが,少し見方を変えると,さまざまな意味で「患者さんを待たせている」という感覚をもってもらうことは研修において重要なことだと思うようになりました。「時間」という因子が外来研修にとって,そこで行われる医療の質にとって「よいストレッサー」になると思います。また,これをうまく利用する ことが,外来研修のひとつのポイントだとも思っています。

 次に,外来(総合外来)では,「患者さんの問題が不明確なこと」が多いということがあります。入院患者さんは,すでに問題がある程度確定し対応してゆくということが多いのですが,外来は「この患者さんの問題点がなにか?」ということからはじめることが求められます(実は総合診療科の入院患者さんはこのような方がいるのですが……)。もう少し深く言えば,総合外来(初診外来)では,「この患者さんはなぜ今日ここに来たのだろう」という視点が求められます。私たちの外来の最終目標はそれを明らかにすることなのだと思っています。「この人の疾患は何?」ということは,目標の一つではありますが,必ずしもそれが最終目標になるとは限りません。特に疾患がなくても外来に来られる患者さんは多くいます。「患者さんの悩みを解決する」「なぜ病院に来なくてはいけなかったか?」という視点とそれに対応することが,外来(特に初診外来)では求められます(問題解決能力)。それに加えて,さまざまな患者さんのさまざまな問題に対応する(多様性に対応する)ことが求められます。これも,外来(特にプライマリケアのあるいは初診の)と入院では違うと思います。

 次に,コミュニケーションの重要性です。これは,医療にとってきわめて重要ですが,特に外来では,短い時間のなかで,もしかしたら一生に一度しかお会いしない人の深い問題への対応が求められることがあります。こんなときに重要なのが,患者さんやご家族またコメディカルとのコミュニケーションです。そして,それを研修医に伝えることは大変難しい。外来での診察および検査結果の説明や事後指導など,外来でのコミュニケーション技術の重要性は計り知れません。また,ここが研修医の最も苦手とする部分でもあり,さまざまなトラブルの元になる可能性もある部分です。さらに,これは,カンファレンスやディスカッションで伝えられたり,鍛えられるものではありません。実際に指導医が患者さんに接する場面を見せることが求められます。それに加えて,ロールプレイやシミュレーションを通して訓練し,実際の患者さんに接してみないと身につけられないものです。

 一期一会の外来で重要であるコミュニケーションを,その時間的制限のなかでいかに身につけてもらうか? これは大変難しい問題です。また,それ以上にというよりそれ以前に,私たち指導医がその点について認識しその技術を磨くことが求められます。

 ほかにもいろいろと入院診療と外来診療が違う部分はありますが,ここで言いたいことは,どうも「入院診療を極めれば外来診療ができるようになる」というのは,少し難しいようだということです。もちろん,入院診療を経験することが,外来診療に生かされることは確かですし,また,医師としての研修をどの順序で行うかという点で,「入院外来」というのは,ひとつの方法としてあるとは思います。しかし,この問題は「プールでいくら泳ぎを練習して,うまく泳げるようになったとしても,流れや波のある海や川ではうまく泳げない」ということと似ているかなと思います。

2)大切にしなければいけないことは?

 外来研修で大切にしないといけないことは?「研修医の指導」?「指導医の力量」?「看護師さんのフォロー」?……。当たり前のことですが,一番大切にすべきことは「患者さん」のことです。「そんなことあらためて言われなくても……」と声が聞こえてきそうですが,あえて書きます。「いい医療を行っているところでないといい研修はできない」,この原則は常に頭のどこかにおいておくことが必要です。私たちの目的である「患者さんにとって満足のいく医療を行うこと」を私たちが現場でみせること,またそこで研修医にも一緒に悪戦苦闘してもらうことが,何よりの研修です。だからこそ,「外来が一番大切にしなければいけないことは何か?」ということを常に研修医も含めてみんなで考えてゆける環境を大切にしたいと思います。

3)周囲の協力は不可欠!

 周囲,特に一緒に働くコメディカルスタッフの協力は不可欠です。具体的には,看護スタッフの協力は絶対的に必要です。看護スタッフから,研修医に伝えられることは本当に多くあります。患者さんの視点や看護師からの視点を伝えること,医師としての判断や医療の質についてのチェックを入れること(特に研修医の場合)など。また,看護スタッフが,患者さんと私たち医師(研修医)の間に入りクッションの役目を果たしてくれることはしばしばです。これによって医師に不足がちなコミュニケーションがフォローされます。その他にも,私たちの見えないところで,さまざまな役割を彼らがしてくれていると思います。「研修医の教育に参加することのメリットを感じてもらい,いかに主体的に教育にかかわっていただけるか?」,これが外来研修を成功させるポイントの一つです。

 もう一つ,言うまでもなく,病院の管理者の理解は不可欠です。これについては,ここでは詳しくは述べませんが,大変重要な部分だと思います。

4)指導医の力量や姿勢は重要!

 外来という場は,指導医が診療を行う場としても,決してやさしい場ではありません。特にさまざまな訴えをしてくる患者さんたちに対応することを要求される初診外来は苦労の多いものです。領域が決まった専門外来とは違う意味でのストレスが,総合外来(初診外来)にはあります。「このような外来で,さらに技術的に未熟な研修医を指導なんて……」と最初から尻込みしてしまうと思います。しかし,指導医として外来に参加することは,一人で医師として行っている外来とは違う視点を持つことにつながり,それが自分自身の医師としての成長につながることは間違いありません。「人に見られている」という感覚が自分自身を見直すことにつながることは容易に理解できると思います。その意味でも,指導医の外来を行う力量とその姿勢は,研修医たちにとっても,コメディカルにとっても大変影響の大きいものです。「一緒に勉強してゆくという姿勢で常に謙虚に」という姿勢,これを忘れたくないものです。

5)研修医諸君,やる気はあるか!

 外来研修においても,研修医諸君が「前向きに一生懸命」やることが,必要であることは言うまでもありません。「よき医師となるために」という基本的な気持ちがないところに,いくら環境や指導体制を整えたり,患者さんにご協力いただいても,十分な効果が得られないことは容易に想像可能だと思います。

 さらに言えば,「臨床研修は,研修医個人のために」行っているではありません。将来その医師に診てもらう「患者さん」のために行っているのです。研修医諸君には,この点を自覚してほしいと思います。

6)患者さんに感謝,感謝

 患者さんには,時に本当にご迷惑をおかけすることがあります。もちろん,大きな不利益にならないような細心の注意を,私たち指導医だけでなく,研修医,コメディカルが払うことにはしています。しかしながら,それでも,患者さんの協力がなければやっていけません。「患者さんに不利益を起こすことがあるのだ」ということを常に意識することが大切です。一方,患者さんにとっても,デメリットばかりかというとそれだけでもありません。指導医ではなく研修医が患者さんを診させてもらうことによって,解決するような問題や患者さんの満足が得られることは多くあります。私たち指導医は,研修医が診療することで起こりうるさまざまなデメリットをできるだけ少なくし,そのメリットが最大化されて患者さんに届くようにサポートすることが求められると思います。

今回のポイント
(1)外来と入院はやっぱり違う!
(2)大切にしなければいけないことは?
(3)周囲(特にコメディカル)の協力は不可欠!
(4)指導医の力量や姿勢は重要!
(5)研修医諸君,やる気はあるか!
(6)患者さんに感謝,感謝

■とにかくはじめよう!

 ここまでの読んでくださった方のなかには,「こんなに大変なら,とてもできないしやりたくないな」と思われた方もあるのではないでしょうか? また,前向きな人は,「じゃ,これからまず指導医としての技量をつけて,病院に掛け合い,コメディカルにもお願いして,状況を整えよう。整ったら開始しよう」と考えていただいたかもしれません。もちろん,そうなればそれにこしたことはないのですが,私の提案は,「とにかくはじめてみよう」です。

 規模は小さくても,総合外来なんて組織がなくても,
(1)「研修医と一緒に外来の勉強をしてみよう」という思いがある指導医がいて
(2)「外来って勉強してみたいな」という研修医がいて,
(3)まあ,「応援するよ」という病院があり,
(4)「研修医ががんばってくれるなら,協力するよ」と言ってくれるコメディカルがいれば,すぐにでもはじめられます。少しずつ継続的に行えば必ず結果がでてきます。また,それを一緒に体験することで周囲の理解は生まれます。言葉だけで説得することは大変難しいことです。少しずつはじめてみましょう。それは結果的に「患者さんのために」なると思います。一番大切にしなければいけないことを忘れないように,「とにかくはじめてみましょう」。

 今回は,概念的,抽象的な話が中心となり,申し訳ありませんでした。皆さんには,外来研修の意義とその困難さをお伝えしたかったというのが今回の趣旨です。また,とにかく一緒にがんばってみましょうということが私たちからのメッセージです。

 次回からは,覚えておくよい臨床教育の知識を簡単にお話し,その後,私たちの実際の様子を交えながら,具体的なケースを中心に,皆さんと一緒に外来研修の実際を学んで行きたいと思います。「少しずつ,無理せず,継続的に」,これを合言葉にして,一緒に学んでいきましょう。

(次号につづく)


川尻宏昭
1994年徳島大学医学部卒。同年,佐久総合病院初期研修医。2年間のスーパーローテーションおよび2年間の内科研修の後,病院附属の診療所(有床)にて2年間勤務。2001年10月より半年間,名古屋大学総合診療部にて院外研修。その後,佐久総合病院総合診療科医長として,診療と研修医教育に従事。2006年12月より現職。