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●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第9回 テーマ

三者関係を診療に生かす(2):
家族を加えた患者とのコミュニケーション

木村琢磨(国立病院機構東埼玉病院総合診療科)


【キーワード】
●家族を加えた三者関係のコミュニケーション
●キーパーソン
●患者と家族の関係性

事例紹介:妻が診療に参加したことを契機に糖尿病コントロールが改善した中年男性

 55歳の男性,糖尿病で数年来,外来へ通院中.食事療法の重要性はわかっているが,なかなか実行に移せず,間食してしまうことが続いている.

医師 「最近,間食は気をつけていますか?」
患者 「はい.わかっているんですが,ついつい……」
医師 「以前,奥さんと一緒に栄養指導をお受けいただきましたが,奥さんは最近,何かおっしゃっておられますか?」
患者 「はい……」
医師 「次回,奥さんとご一緒においでいただき,奥さんからもお話をお聞きしたいのですが,よろしいですか?」
患者 「わかりました……」

1カ月後,患者は妻と来院.

医師 「奥さんからご覧になって,最近のご主人のお食事はいかがですか?」
 「主人は外食が多いものですから…….薬も飲み忘れが多いですし……」
医師 「糖尿病なんですが,あまり良くはなっていないんですよ」
 「そうでしたか……主人は何も言わないものですから……」
医師 「ご存じなかったですか……」
患者 「……」
医師 「奥さんと一緒にがんばりましょう」
患者 「はい」

数カ月後,糖尿病コントロールは改善傾向となった.

医師 「すごいですね,よくなってきましたね」
患者 「女房がいろいろ言うもんですからね……」

■家族を意識した三者関係の外来診療

 患者との二者関係の臨床の際に,家族を意識して,三者関係で臨床事象を捉えることは,外来診療で重要な側面です.筆者の考える,その具体的な臨床状況を示します(表1).

表1 家族を意識した三者関係の外来診療
臨床状況 三者関係を志向したアプローチ
(患者の同意や自己決定の保持が原則)
患者との二者関係で安定 通常の診療 ・家族図の作成
・家族の解釈モデルを聴取
・患者と家族の関係性に配慮
家族から情報収集が必要 患者からの情報収集や理解度に限界がある高齢者,認知症など ・家族から情報収集を行い,患者・家族と方針を協議
・家族に患者の意思決定をサポートしてもらう
家族の代理決定が必要
家族に報告・相談が必要 緊急性を要する状況,重篤な疾患が明らかになった場合,リスクのある検査・治療や,高次医療機関・専門医へ紹介が必要,施設入所や入院の提案など ・家族に患者の状況を説明し,患者・家族と方針を協議
慢性疾患の行動変容が困難 生活習慣病の食事・運動療法が不良,服薬管理が不良,禁煙など ・家族が患者の病状を理解しているかを確認し,患者情報を共有
・治療上,家族の協力が必要な旨を説明し,患者・家族と相談
・家族の感情にも配慮し助言
心理社会的な要素が強い臨床問題 終末期,うつ状態,不安状態,アルコール問題など
患者の症状に家族内葛藤が関係 摂食障害など ・スーパーバイザーの指導や,専門的な家族療法を検討
文献45789を参考に筆者が作成)

 家族を意識した三者関係の外来診療には,まず,患者との二者関係で安定している通常の診療において,患者と診察室に不在の家族の関係性に配慮してアプローチする方法があります1)

 つぎに,家族に診療に参加してもらい,患者の情報収集や意思決定をサポートしてもらう方法もあります.これには,家族がはじめから付き添ってくる場合2)と,後から家族を加え,三者関係とする場合があると考えられます.

 患者との二者関係に家族を加え,三者関係とすることが,患者マネジメントに有用なことがあります3).これには,患者自身の同意を得ることが原則です.しかし,一般に三者関係のコミュニケーションは,二者関係のコミュニケーションよりも複雑なため4),不用意に二者関係から三者関係とすれば,診療の妨げとなる可能性も秘めています.

 本稿では,二者関係の臨床に,家族を加え,三者関係のコミュニケーションとする意義や注意点について考えます.

■二者関係から三者関係にして臨床を発展させる

 二者関係の臨床時に,医師が家族からの情報収集や家族の代理決定が必要と考えたり,家族に報告・相談が必要と考えれば,家族の来院を要請する必要があります.そのほか,家族を診療に加えた三者関係の臨床が,診療に有用な場合として次のような状況が考えられます.

慢性疾患の行動変容に有用

 例えば,事例のように,二者関係で指導しても成果が上がらなかった生活習慣病の食事・運動指導が,妻なども交えた三者関係で成功することは,しばしば経験されます.妻など家族の存在は,患者のモチベーションを高め行動変容を促したり,生活習慣の改善を支援し,糖尿病や高血圧のコントロール,禁煙,減量に有用であることが知られています3~5)

 これにはまず,家族が病状を把握していることが必要です.例えば,事例では患者が妻に病状を伝えていなかったと考えられます.そのため,妻へ食事内容を事細かく伝えることなく,病状を説明するだけで意義があったと言えます.つまり,医師と妻が患者の病状を共有した結果,患者と妻の間に病状について会話をする時間が生まれ,妻が患者を支援し,患者の行動変容が促されたと考えられます.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)木村琢磨:家族に付き添われた患者とのコミュニケーション;相手は患者か家族か.medicina 47:720-724, 2010
2)木村琢磨:三者関係を診療に生かす(1);家族を意識した患者とのコミュニケーション.medicina 47:908-911, 2010
3)Campbell TL,Patterson JM:The effectiveness of family interventions in the treatment of physical illness. J Marital Fam Ther 21:545-584, 1995
4)McDaniel SH, et al:家族志向のプライマリ・ケア,松下明(監訳):個人の患者に対する家族志向のアプローチ,シュプリンガー・フェアラーク東京,pp 40-50, 2006
5)Cole SA, Bird J:メディカルインタビュー,飯島克己,佐々木将人(訳):家族面接,pp 187-211,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2003
6)古橋直樹・他:高齢者糖尿病治療に対する同居家族の影響.岐内医会誌17:19-25,2003
7)松下明:家族カンファレンスのもち方.JIM 13:73-78,2003
8)飯島克己:家族とのコミュニケーション.外来でのコミュニケーション技法,第2版,pp 144-176,日本医事新報社,2006
9)箕輪良行,佐藤純一:患者家族とのコミュニケーション――医療現場のコミュニケーション,pp 104-141,医学書院,1999
10)松村真司,箕輪良行(編):コミュニケーションスキル・トレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007