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HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻3号(2010年3月号) > 連載●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル
●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第6回 テーマ

The difficult patient(2):
過度な要求や暴言・暴力をどう回避するか

舘 泰雄(石岡第一病院管理者)


【キーワード】
●限界設定 
●社会的支援ネットワーク 
●リスクマネジメント

事例紹介:騒いだり暴れたりする患者

患者:何時間待たせるんだ!

待合から事務受付へ患者がクレームを言ってきたので,診察中の医師が待合に出て説明を試みた.

医師:緊急性がある患者さんはお申し出ください.そうでない場合,順番どおりに診察していきますので,どうぞお待ちください.
患者:いいから早くしろ!

とうとう患者は暴れだしてしまった.

 医療者側からの説明がなしで,診療を待てる時間は,30分~1時間程度が限度と考えられます.日頃特別扱いを受けている人や,自分の子どもに盲目的な愛情を抱いている親は,この時間に納得ができず,早く診察しろと主張することが多いものです.現在,このような患者さんからの暴力,クレームは増え続けています.

 それでは,どのように対処すればよいのでしょうか.

■対応の仕方と限界設定

 the difficult patient:「困難な患者」を診察する時のポイントとして,(1)ご家族を味方につける,(2)社会的支援ネットワークの活用(友人やケアマネジャーへ連絡し,対応してもらう/地域の福祉課や民生委員へ連絡し,対応してもらう),(3)110番通報し,警察を呼び,対応してもらう,などが挙げられます.

 また,限界を設定し,対処する方法が一つ考えられます.患者さんやご家族の主張に十分に耳を傾けたうえで,「当施設で提供できる医療サービスはこの範囲までです」と,限界を設定します.

時間的限界設定

 「本日は,Aさんとお話できる時間は,10分です.これ以上の時間は,本日はとれませんので,改めて後日時間を取り,お話ししましょう」と,後日の面談の予約を取り,当日は帰宅していただく.

施設,設備の限界設定

 「当施設では,ここまでの診察や検査はできるが,これ以上の診察や検査に関しては,高度医療施設でしかできない」ことを,きちんと説明します.

ご家族の協力をいただく

 「当院で提供できる医療サービスには限度があり,それ以上は,患者さん本人,ご家族の方々に協力いただくしかない」ことを,丁寧な口調ではっきり伝えることが大切です.

 例えば,「Aさん,ご家族のお気持ちはよくわかりますが,残念ながら,当院ではここまでしか医療サービスを提供できません」.

医療者側の心構え,限界設定

●難癖をつけてくる患者さんやご家族に対しては,決して同じ土俵に立って,言い争わない.

●可能であれば,一人では対応しない.あらかじめ「同席するだけでよい」と説明したうえで,看護師や事務職員と一緒に対応する.

●説明内容をきちんとカルテに記載する.その際に,「Aさん,長男Bさん(患者さんとの関係,同居の有無,どこに住んでいるかを記載)へC看護師同席のもと説明を行う」といった事柄も含める.

■具体的にどう対応すればよいでしょうか

「早く診察しろ」と騒ぐ場合の対応

 私は,外来において,トラブルメーカーになりうる患者さんやご家族は,順番を先に回してでも,早く診察して,早く帰っていただいたほうがよいと考えます.可能ならば,別の診察室で対応するのがよいでしょう.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)松村真司・箕輪良行(編):コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007
2)伊藤史生:ERで出会うむずかしい患者と家族との付き合い方,ERマガジン1:119-122,2004
3)飯島克己,佐々木将人(訳):メデイカルインタビュー――三つの機能モデルによるアプローチ,第2版,メデイカルサイエンスインターナショナル,2003
4)香山リカ:悪いのは私じゃない症候群,pp 36-49,ベストセラーズ,2009