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●外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル

第5回 テーマ

The difficult patient(1):
患者さんを「いやだな」と感じてしまうとき

舘 泰雄(石岡第一病院管理者)


【キーワード】
●困難な患者
●受容能力
●苦情社会

事例紹介:患者としての役割をとることに関して葛藤が生じる患者

患者:もう2時間も待っているのです.
医師:申し訳ありません.先にいらしたほかの患者さんから順番でみているので遅くなりました.
患者:私は,市議会議員で,早く診てもらわないと困るんです.
医師:ご事情はわかりました.それでは,診察しましょう.

 大学教授や研究職など知的に高い職業や,政治家や社長など社会的地位の高い職業が「困難な患者」の要因となります.競争意識が強い社会にいるため,自分の中にある依存的な面や受動的な面である自分の弱い部分を受け入れたくない気持ちが強くなっています.そのために,自分が患者であることを忘れて,患者という役割をとることに関して葛藤が生じてしまいます.患者という役割をとれず,医療者にとって「困難な患者」となってしまいます.

■どのような患者の態度や行動が医療スタッフにとって困難になるのでしょうか

The difficult patient:「困難な患者」とは

 外来診療を行っていると,「いやだな」と思う患者さんに,ときどき出会います.最近は,社会全体に格差意識が広がり,苦情が増大しています.その結果,「いやだな」と思う患者が増えてきていると思います.この「いやだな」と思う患者さんが,まさしくthe difficult patientすなわち,「困難な患者」なのです.「問題患者」「トラブルメーカー」などといわれることもあります.

 「困難な患者」は,外来で問題になったり,病棟を混乱させたり,医療スタッフを困らせたりする患者さんです.

 私たち医療スタッフにとって,このような「困難な患者」は,非常に対応が難しくなります.また,私たち医療スタッフは,患者の回避は許されず,むしろ毎日,患者さんに近寄って行かなければなりません.そのために,医療スタッフにとっても大きなストレス源になります.

 「困難な患者」の原因には,患者個人の精神医学的問題がある場合もありますが,医療スタッフと患者との治療関係や,家族との関係,あるいは病院の構造や病棟の環境などの側面から生じることもあります.

「困難な患者」の態度と行動

 医療スタッフにとって問題となる患者の態度や行動は,表1に挙げるものがあります.

表1 医療スタッフにとって「困難な患者」
・攻撃的な言動や態度
・過度に依存的な態度
・医療スタッフを色分けしてかかわってくる態度
・医師の指示を無視したり,治療に非協力的な態度
・ 身体的に大した異常がないのにもかかわらず執拗な検査の要求
・医療行為に悪影響のある精神症状
・医療過誤や訴訟に関連した訴え
・医療行為について要求や不満が多い家族

 「困難な患者」は,医療スタッフのそれぞれの受容能力によって多少は異なって映ります.ある人にとっては,「困難な患者」であっても,別のスタッフにとっては,「困難な患者」にならない場合もあります.

 表1に挙げたような態度や行動が,対応する医療スタッフの受容能力を超えると,そのスタッフにとっての「困難な患者」となってしまうのです(図1).

図1 「困難な患者」と感じる理由

■困難な患者にはどのような背景があるのでしょうか

 患者側の要因として,以下のものが挙げられます.

身体疾患の特性が要因である「困難な患者」

悪性腫瘍,高度の身体機能障害,重篤な身体疾患
悪性腫瘍や高度の身体機能障害や重篤な身体疾患では,症状も多彩で複雑なため,訴えや要求が多くなり,「困難な患者」となります.

慢性疼痛をもった患者
慢性疼痛(chronic pain)をもった患者さんでは,患者さんの訴える症状と観察される他覚的所見のズレから,医療スタッフと患者さんの溝が生じます.「医療スタッフから共感されていない,理解されていない」という患者さんの体験があり,疼痛の症状と程度を助長します.その結果,訴えが強くなり,「困難な患者」となります.

慢性疾患を抱えた患者
慢性疾患を抱えた患者さんは,いわば自分の疾患についての専門家になります.特定の専門家でないスタッフとの間に知識のギャップが生じ,スタッフの対応に細かく干渉,注文を言うため「困難な患者」となります.

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)松村真司・箕輪良行(編):コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度の向上と効果的な診療のために,医学書院,2007
2)飯島克己,佐々木将人(訳):メディカルインタビュー――三つの機能モデルによるアプローチ,第2版,メディカルサイエンスインターナショナル,2003
3)関根眞一:となりのクレーマー――「苦情を言う人」との交渉術,中央公論新社,2007