巻頭言
特集ICTが変える病院医療

 一般産業でのICT活用は進み,毎日のように新たな知見や話題がニュースに上る.医療界では,他産業に後れを取った感もある.しかし,ヘルスケア産業への政治・経済的な注目によって,病院による改革ばかりではなく,起業家や大手企業の参入が目立ってきた.

 医療においてICT活用は,臨床現場で診断や治療における医師の補助機能,遠隔・オンライン診療の他に,先端技術としての機器の進歩,遺伝子解析や疾病管理・予防・健康経営のためのビッグデータの解析などに貢献することだろう.

 一方,2019年春の労働基準法改正によって労働時間の管理が医師以外の職種で厳格化され,医師に関しても2024年までに規定される働き方改革においてもサービスの生産性向上・省力化などの視点が求められ,ICTへの期待が大きくなってきた.

 このような背景の下,本特集で鈴木康裕氏らは,今後の医療へのICT導入の需要を踏まえると周辺産業に携わる医師の需要が高まること,そしてICT,特にAIへのタスクシフトが,医師の本来的な役割として機械では難しい,患者を「分析する」,患者を「説得する」,患者に対して「責任をとる」の3つを強化することにつながるとする.

 同様に水野正明氏は,AIの活用として,その大いなる可能性を語りながらも,過信は禁物であるとする.そして,常に患者のそばに寄り添い,病気だけではなく,個人の尊厳を支えていくこと,それこそが,AIにできないが,人である医師にはできることであるとする.

 江崎禎英氏は,データヘルスの可能性を示唆し,ICT・AIの活用のために,入力段階からシステムを統一し,クオリティデータを効率的に収集・利用・提供するサイクルを形成することが肝要であるとする.また,西村拓一氏には,AIを医療や介護の現場で活用するための知識構造化技術を紹介し,今後の応用を示唆していただいた.

 加えて,実際に臨床現場における応用として,2つの先端事例を紹介していただいた.さらに,冒頭の巻頭対談で亀田信介氏より,ICTのトップランナーとしてのこれまでの歩みだけではなく,現時点での先端事例や今後の取り組みも語っていただいた.

 時代の変化を止めることはできないが,先手を打つことはできる.時代の流れを読み,情報を収集し,必要なものを病院業務に導入する.それが,病院医療の質の向上と生産性向上に資するに違いない.ICTの活用はこの考え方の最たるものであろう.

 進歩の著しいICTの分野で,2019年夏現在のICT活用の実際と方向性,展望を整理した.ご参考になれば幸いである.

社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長神野 正博