巻頭言
特集ステークホルダーマネジメントとしての病院広報

 病院の「広報」という言葉からどのようなことが思い浮かぶか.読者の中には,患者を集めるための「広告」をイメージされる方もおられるだろう.昔から存在する駅構内の病院の看板などはその典型であろう.最近ではインターネットのホームページやFacebookなどのSNSなど,広報媒体が多様化してきているが,集患のためのツールが広報であるという意識を持つ病院関係者は少なくないように思われる.

 しかし,広報学の理論に学ぶと,広報という概念には広告を超える多様な考え方が含まれていることが分かる.日本語の広報に対応する英訳は「パブリック・リレーションズ」である.わが国で普及しているPRという単語は,「Public Relations」の頭文字を取った言葉である.組織と組織の存続を左右するパブリック(公共)との間に,相互に利益をもたらす関係性を構築し,存続をするマネジメント機能がパブリック・リレーションズであるとされている.

 近年,病院をめぐる環境は大きく変化している.変化の中で自院が生き残ってゆくためには,これまでのように病院が一方的に情報を発信するだけではなく,患者,職員,研修医・医学生,他の医療・介護関係者,行政,メディア,企業・投資家などのステークホルダーと双方向のコミュニケーションを取ることが求められる.言い換えれば,ステークホルダーとの関係をマネジメントすることが必要な時代となっている.

 病院広報を考える上で指摘したいのが,コミュニケーションに関する技術的側面である.日本人は,欧米のように人種が多様ではなく,日本語を共通言語としているため,外部とコミュニケーションを取る際に自己の考えが全て相手に伝わっていると考えやすい.しかし,社会状況が複雑化し,人々の考え方が多様化している中で,自己の考えは簡単に伝わらない時代となっている(なお,本特集伊関論文では,コミュニケーションの構造上,そもそも自己の考えが全て相手に伝わるものではないことを指摘している).病院組織の考えも,ステークホルダーに簡単には伝わらない.ステークホルダーに病院組織の考えを適切に伝えるためには,伝える技術が必要となる.病院のマネジメントにおいて,伝える技術に優れた広報部門の活躍する場面は増えていくものと考える.

 本特集では,全国の病院広報の先進事例を紹介しながら,これからの病院広報や広報部門のあり方について考えていく.本特集が病院における広報の進化の一助となることを期待する.

城西大学経営学部教授伊関 友伸