巻頭言
特集 国民健康保険制度の組織改革が
病院に何をもたらすか

 2015年5月,国会で医療保険制度改革関連法が成立した.これにより,2018年度から都道府県が市町村と共同で国民健康保険を運営する新たな体制に移行することになる.

 1938年に創設された国民健康保険制度は,1961年の新国民健康保険法の制定による国民皆保険の達成を経て,国民の生命を守るセーフティネットとして重要な役割を果たしてきた.しかし,近年の少子高齢化の進行や非正規労働者の増大など,わが国の社会保障をめぐる変化により,国民健康保険は,加入者が高齢であることによる医療費支出の高さ,低所得加入者が多いことによる保険料負担の重さ,保険者である市町村の財政の不安定や自治体間の格差などの構造的な問題を抱えるに至った.

 2013年8月,社会保障制度改革国民会議は報告書において「国民健康保険の保険者の都道府県移行」に関する提言を行った.提言を受けて国と地方の協議の場(国保基盤強化協議会)において議論が重ねられ,先の法案提出となった.

 都道府県が市町村と共同で国民健康保険を運営することにより,財政的な安定性は強化されたものの,課題は多い.国保運営協議会の設置や各県の国保運営方針の策定,市町村負担金の納付体制の確立など,行わなければならない事務作業は膨大なものとなる.特に,保険料の市町村格差の平準化に向けたルールづくりは関係者の合意を得るのが難しい問題となる.

 2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法において都道府県に地域医療構想の策定が義務づけられたことと合わせて,医療・医療保険政策における都道府県の果たすべき役割は非常に大きなものとなった.

 これから都道府県が行わなければならない医療・医療保険の改革は,前例のないものであり,試行錯誤を重ねながら進めていかざるを得ない.その時に重要なことは地域におけるさまざまな関係者の話し合いである.医療提供体制や財源に制約がある以上,住民を含めた医療や医療保険の関係者が負担を分かち合うのでなければ,制度の維持は困難である.関係者が冷静に現状の課題を分析し,一つ一つ解決策を見いだしていくことが大切である.その点で,今回の制度改正は,国民が医療や医療保険制度について理解を深める大切な機会(学びの場)となると考える.

 本特集が,国民健康保険制度改革の議論の一助となるものと期待する.

城西大学経営学部伊関 友伸