巻頭言
[特集]  医療の質指標  新時代の幕開け

 2014年11月に公開されたOECDのレポート(Reviews of Health Care Quality JAPAN-Raising Standards-Assessment and Recommendations)では,わが国の医療制度に関して,医療の質評価に関する取り組みが遅れていることが指摘された.実際にはわが国でもすでに医療の質指標を活用する基盤は整いつつある.そこで本特集では臨床指標が今後どのように広がっていき,その結果としてわが国の医療提供体制にどのような影響を及ぼしうるのかについて有識者に論述していただいた.

 わが国において体系的かつ一定の規模を持って医療の質評価事業を行うことを可能にしたのはDPC事業である.筆者らの研究班での取り組みなどが契機となって,種々の組織によってDPCデータを活用したベンチマーキング事業が2000年代に広がった.そして,この枠組みをさらに一般化したのが厚生労働省医政局の「医療の質の評価・公表等推進事業」である.伏見論文で詳細に説明されているように,国立病院機構がDPCおよびレセプトデータを活用して作成した一連の指標群が,他の組織,例えば済生会(田崎論文)などでも採用され,わが国の急性期入院医療の質評価におけるde facto standardとなっている.もちろんこうした指標開発の背景には,小林論文で紹介されているような諸外国の動向の詳細な検討が行われている.

 国民の医療に対する関心が高まっている今日,医療への適切な財源を得るためにも質評価への積極的な取り組みが不可欠である.園田論文,矢野論文ではそれぞれ回復期リハビリテーション病棟および慢性期病棟での質評価の取り組みが紹介されている.急性期に比較してアウトカム評価のためのリスク調整が難しい分野であり,その活用の仕方など課題が大きいことが指摘されている.

 こうした質指標は単に作成され,公開されるだけでは意義が小さい.指標を日常の業務改善活動にいかに活用していくかという実践面での取り組みが不可欠である.この点において,今回論文を書いていただいた関係者の組織では,そのための研修会なども開催されている.こうした地道な取り組みの積み重ねによって,わが国の医療の質評価に関する取り組みは,短期間の間に国際的にも高い水準のものになると思われる.

 今後,地域医療計画においても医療の質に関する評価が取り入れられるようになるであろう.患者,施設,地域,国の各レベルで相互に関連のある指標群が整備されることで,体系的な取り組みが可能になる.こうした試みが可能になった背景にはDPCやレセプトの電子化といった医療の情報化の進展があり,そしてそれは今後さらに高度化していくであろう.読者にとって本特集がわが国における医療の質評価を体系的に考えるきっかけになれば幸いである.

産業医科大学公衆衛生学教室 松田 晋哉