巻頭言
[特集]  地域包括ケアの中核としての病院看護部門

 地域医療構想の作成過程では,病院および病床機能の再編が行われる.具体的に病床は高度急性期,急性期,回復期(軽度急性期),療養に区分され,さらに地域包括ケア構想の枠組みの中で病院と診療所・介護事業者との連携が強化されていく.超高齢社会においてこの連携の縦糸となるのは看護部門である.そこで本特集では今後の地域医療体制の変革に伴う病院看護部門の役割について総合的に俯瞰した.

 筒井論文では今後の社会保障制度改革の中核に「地域包括システムの構築」を位置づけ,医療と介護の連携を進めるために情報共有の仕組みの構築が最も重要な課題であるとしている.そして,そのためには地域の医療・福祉・介護専門職との連携を病院の看護職側が積極的に行うことが必要としている.

 このような問題意識に関して,今回は先進的な取り組みを行っている3施設(尾道市立市民病院・恵寿総合病院・済生会熊本病院)を取り上げた.

 粟村論文では,患者のQOLに配慮した良質な退院支援を行うために,患者の生活を見据えた看護ケアの必要性を指摘し,尾道市立市民病院で実践している看護師による療養指導(例えば「トイレで排泄キャンペーン」,内服自己管理支援)を具体的に説明している.これは近年欧米で積極的に行われている「治療的健康教育(therapeutic health education)」に他ならない.

 地域包括ケア病棟における看護実践について論述した本橋論文では,病院看護師と訪問看護師との間で患者・患者家族に対する医療処置の指導方法について差があることを指摘し,その解消のために両者の協議が必要であるとしている.このような協力関係があることで医療依存度の高い患者でも家族の協力のもとで在宅での質の高い療養が可能になるとしている.そして,このための共通記録簿の重要性が述べられている.地域包括ケア病棟は入院と在宅の連携の中核であり,こうした点は特に重要であろう.

 看護が地域包括ケアをつなぐ縦糸として機能するためには,地域の看護力をいかに高めるかが喫緊の課題である.宮下論文では,済生会熊本病院における地域の連携病院と協働で行っている看護研修の事例が紹介されている.このような実践が日常的に行われていることが同病院が先進施設と評価される所以なのであろう.

 本特集が地域包括ケアにおける看護の役割を改めて考える機会になればと思う.

産業医科大学公衆衛生学教室 松田 晋哉