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JJNスペシャル No.85
安全・確実・安楽な
がん化学療法ナーシングマニュアル

編:飯野 京子  国立看護大学校看護学部教授
   森 文子  国立がんセンターがん対策情報センター/中央病院,がん看護専門看護師

書 評

「安全」「確実」「安楽」な看護実践の手引き書
書評者:足利 幸乃 (日本看護協会神戸研修センター教員・
   がん化学療法看護認定看護師教育課程担当)

 この数年,がん化学療法に関する看護本は出版ラッシュだった。看護師が知っておくべきがん化学療法の基本的知識は大きく変わることがない。つまるところ,本のコンセプト,新薬,新レジメン等に関する情報の量と解説,編集の工夫などが,本の違いとなり,その本の個性となる。がん化学療法に関して出版されるいくつかの看護本を手に取りながら,違いをだすのは難しいと感じていた矢先,飯野京子氏と森文子氏が編集した本文311頁のソフトカバー本である『JJNスペシャル No.85 安全・確実・安楽な がん化学療法ナーシングマニュアル』の書評依頼を受けた。

 この本をひと言でいうと,がん化学療法看護本の中で差異を鮮明にすることに成功した本といえる。本のコンセプトの明確性と一貫性は顕著であり,そのコンセプトを文字化,図式化,視覚化するための工夫,編集上の工夫が随所にみられる。

 編集の飯野京子氏と森文子氏は,がん化学療法看護分野でのリーダーであり,両氏の実践と教育両面での仕事はよく知られている。両氏は,がん化学療法看護を実践する,教えるという役割経験の中から,がん化学療法看護の基本原則を「安全」「確実」「安楽」に絞り込み,この考え方の解説と具体的な実践行為について,がん化学療法看護認定看護師とともに文字化,図式化をこの本で図っている。

 Part I は,がん化学療法管理・看護における「安全」「確実」「安楽」の概念的な解説編,Part II 以降が実践編である。薬剤師の樋口順一氏が担当されたPart II 「注射用抗がん剤の混合調製」は,私が知っているがん化学療法関連の本の中では,調剤に関するカラー写真の豊富さでは群を抜いており,調剤手順絵と解説が具体的で,かつ,スペースが十分に確保されている。つまり,図や写真がしっかり大きい。これも,編集のこだわりと工夫ではないかと感じる。

 Part III 以降は,投与前,投与時,投与中,投与後のナーシングとなっており,看護師として行うこと,知っておくべきことは,がん化学療法管理の時系列順に記述されている。Part IX はレジメン別看護の章であり,読者は,自分が実際に管理するレジメンを探し,そこを読めばよいようになっている。その他,「経口抗がん剤の理解と服薬指導」「外来化学療法のナーシング」という,最近のトピックスに関連する章も設けられている。

 がん化学療法の知識や経験がほとんどない人であっても,文字を追えて内容が理解でき,書いてある通りにやればある程度できるというレベルまで書き込まれている。がん化学療法看護の経験者にとっては,「安全」「確実」「安楽」という基本の確認,自身の実践の見直しになるとともに,スタッフを指導,教育する立場になった場合に,教材として使えるようにも考えられた作りとなっているように思う。編集者や執筆者の意図はどうあれ,本をどう読み,どう使うかは読者次第であるが,飯野氏が「本書を読まれるみなさんへ」で述べているように,がん化学療法の臨床において,「安全」「確実」「安楽」な看護実践の手引き書として活用してほしい一冊である。

がん化学療法看護の最新マニュアル!(雑誌『看護管理』より)
書評者:渡邉 眞理 (神奈川県立がんセンター医療相談支援室)

◆求められるがん化学療法の質向上

 がん化学療法は,2002(平成14)年からの診療報酬改定と「がん対策基本法」(2006年)に基づく「がん対策推進基本計画」の成立により,社会的にも注目されている。さらに,「がん診療連携拠点病院の整備に関する指針」の改定(2008年3月)では,がん化学療法の提供体制について,緊急時の体制,レジメンの審査などを行なう委員会の設置とキャンサーボードとの連携協力,がん化学療法に携わる専門的な知識・技能を有する医師・看護師・薬剤師の配置など,がん化学療法の安全体制の充実と質の向上が求められるようになった。以上のことに関連するだけではなく,多くの病院で,がん化学療法を病棟・外来において安全に実施することは管理上の大きな課題である。

 編者である飯野京子氏と森文子氏はがん化学療法看護認定看護師コースに5年間携わってきた経験から,本書のメッセージを,“看護が支える「安全」「確実」「安楽」ながん化学療法”としている。その柱は,次の3点である。

  1. 劇薬・毒物である抗がん剤の「安全」取り扱い
  2. 薬の効果を最大限に,患者への負担を最小限にする「確実」投与管理
  3. 不可逆である有害事象を最大限緩和し,長期にわたる治療において患者が「安楽」に過ごせる支援

 本書はこのメッセージに沿って実践的に活用できるよう構成されている。

◆治療管理という視点からみたがん化学療法とは

 第1章の「がん化学療法を管理するために」では,がん化学療法において治療管理する視点で,治療計画に沿った安全・確実・安楽な投与を行なうことが,がん化学療法看護の中核であると明記されている。ここでは,そのための基礎知識はもちろんのこと,がん化学療法におけるリスクマネジメントについて,事故を未然に防ぐセーフティマネジメントと事故発生後の対策であるエラーマネジメントの2つの視点から語られている。具体的な抗がん剤投与に必要なマニュアルの紹介もあり,がん化学療法のリスクマネジメントに十分に活用できる。また,安全性に関しても,抗がん剤を扱う際の暴露対策のマネジメントについても具体的に記されている。第9章の「主要なレジメンとその看護」では,R-CHOP療法,PE療法など頻度の高いレジメンから分子標的治療薬など新薬のレジメンに至るまで,レジメン別に看護のポイントを各療法の流れ,投与指示例,主な副作用対策,使用薬剤のアセスメント,薬剤投与前・中・後の看護の流れとチェック項目で解説されている。

 がん化学療法において,看護師は患者に直接的かつ密接に,治療前・中・後とかかわり,患者を支援していかなければならない。この役割の重要性と前述の社会的背景もあり,ここ数年,がん化学療法看護に関する著書は数多く出版されている。しかし,その中でも本書はがん化学療法を治療管理する視点で構成されていること,さらにイラスト,図表,写真,カラーが豊富に用いられており,わかりやすさと,使いやすさという点でも看護管理者やがん化学療法に直接携わる看護師にお勧めしたい1冊である。

(『看護管理』2009年7月号掲載)

治療を管理するという視点
書評者:神田 清子 (群馬大教授・臨床看護学)

 抗がん剤は毒性の強い薬剤であり,常に「危険と隣り合わせ」である。がん化学療法看護は,手術治療や放射線治療の看護とは違い,抗がん剤を与薬するラインの選択,治療薬の追加接続など,治療に直接かかわるという特徴がある。そして何よりも「安全・確実・安楽」な看護実践が求められる。

 抗がん剤の開発・進歩は言うまでもなく,がん化学療法を受ける患者は年々増加している。チーム医療の中で,患者のQOLを高めるために,看護師の果たす役割や責任は大きくなっている。この状況を受け,昨今「がん化学療法の有害事象の管理・教育」について記した著書が多数出版されている。しかし,これらだけでは危険は回避できない。

 本書は,これまでの著書とはひと味違う。がん化学療法看護の実践者らが「治療を管理するという視点」を重要な核として,記しているからである。「安全・確実・安楽な看護を提供することができ,化学療法看護に自信を持つことができる」ように読者を導いてくれる。

 I―IX章から構成され,いつ,どのタイミングで,どのような看護を行えばよいのか,投与前,投与中,投与後の時系列別のナーシング,拡大する外来化学療法と経口薬のナーシング,主要なレジメンとその看護のミニマムエッセンスがまとめてある。

 すべての章には,①劇薬・毒薬である抗がん剤の「安全」な取り扱い,②薬の効果を最大限に,患者への負担を最小限にする「確実」な投与管理,③そして不可避である有害事象を緩和する。患者が長期にわたる治療において「安楽」に過ごすための支援とは何か――が理念として貫かれている。

 計画通り確実に患者に薬を投与することは,レジメンの意味を知ることから始まる。本書ではレジメン指示の例を引用しながら,読み方の一つひとつ,すなわち薬の名称,投与量,投与日,治療全体の期間,そしてなんと「/m2」は「パースクエアメートル」と読むということまで記してある。日常,実践の中で何気なく使用している化学療法に関連する用語についても根拠を示しながら詳細に解説している。そのため,化学療法の看護に携わる初心者はもちろんのこと,ベテラン看護師にも役立つ情報が満載で,まさに痒いところに手が届く著書である。

 日本では抗がん剤の曝露防止に関する明確な基準がなく,各施設にその対策が委ねられている。施設ごとにガイドラインの設置が望まれているが,まだ整備段階にある施設も多く,個人レベルでの防止対策が必要である。本書のII章「注射用抗がん剤の混合調製」では,曝露対策について扱っている。これだけではなく,時系列の看護では,どのように注意し,予防すればよいのかを示してくれている。非常にわかりやすく,手順書としても役立つので,ぜひ活用されることを願っている。

 そして,看護師が自身の安全を守りながら,「安全・確実・安楽な がん化学療法看護を実践」でき,その結果として編者が述べているように,効果的な治療が完遂され,患者の生命の延長とQOL向上へ看護が寄与できることを切望する。