今月の主題●座談会
虚血性心疾患診療における
内科医と循環器専門医の連携
前村 本日は大変お忙しいなか,『medicina』の特集「虚血性心疾患――プライマリケアは内科医が担う」の座談会にご出席くださり,誠にありがとうございます.本日は,専門医のみでなく,一般内科医や研修医も対象として,「虚血性心疾患診療における内科医と循環器専門医の連携」というテーマでお話しいただきたいと思います. ■安定狭心症患者への対応前村 最初は,胸痛を訴える患者にどう対処するかについて,救急の患者と安定した胸痛の患者では対処法が異なりますので,まず,安定した胸痛の患者への対応法からディスカッションしたいと思います. 虚血性心疾患の検査法・治療法は,10年前では考えられないくらい進歩しています.特に,冠動脈CTの登場が最近の大きな変化ではないかと思います.伊苅先生,インターベンション専門医の立場からご紹介いただけますか. 伊苅 安定狭心症の診断について,クリニックで実施するにはハードルの高い検査法が並びます.第一に,運動負荷心電図ですが,これは狭心症患者に運動をさせるので,10,000件に1件くらいですが,検査中に死亡する確率があります.外国の教科書では,インフォームド・コンセントのうえで行うべき検査だと書いてあります.次に,負荷心筋シンチグラフィですが,これは核医学の設備のある大きな病院でないとできません. このように,狭心症の検査法はハードルが高いですが,狭心症は症状が非常に特徴的です.つまり,労作時だけに起こって数分間続き,休んでいると数分で治ってしまう症状です.これは,胸痛を呈するほかの疾患にはない,非常に特徴的な所見で,“Washington Manual”でも,問診の診断率が90%くらいあり,ほかの検査法に決して劣らないと書かれています.まず問診で,労作性数分間の胸痛に“あたり”をつけることが大事だと思います. 問診のコツは,「どういうときに胸痛が起こりますか」と聞いても,だいたいの患者さんは答えられないので,「動いているときですか.じっとしているときですか」と2択にすることです.そうすれば「動いているときです」と答えられます.また,数分かを聞き出すには,「数秒ですか,数分ですか,数時間ですか」と3択にすると答えやすいですね.問診で狭心症が疑わしい場合には専門施設へ,紹介することになると思います. 最近は,冠動脈CTが比較的簡単な検査になってきて,なおかつ画像もきれいなので,患者さんにも非常にわかりやすくて受けがいいと思います.心臓は動く臓器なので,従来のCTではなかなか静止画が撮れなかったのですが,検出装置を1列に64,128など多くつけ,回転スピードを上げることで心電図と同期して撮れるようになったようです.息止め10秒前後で撮れますので,患者さんも非常に楽です.ただし,造影剤によるアレルギーは25,000件に1件の重篤な合併症があるので,喘息のある人だけは避けたほうがよいと思います. しかもこの検査は陰性的中率,つまり陰性=正常であった患者さんが正常である確率がきわめて高いので,どちらかというと,曖昧な所見の胸痛の方,たとえば中年女性で「なんだかよくわからないけれども胸が痛い」という人が狭心症ではないことを言うのには,非常に役に立つ検査だと思います. 一方,重篤で石灰化が顕著な場合は冠動脈CTでは狭窄度がわからないこともありますので,この場合には最終的に冠動脈造影で最終診断することになると思います. 前村 ありがとうございます.いろいろ検査法はあるけれども,狭心症の胸痛は非常に特徴的な所見があるので,一般内科の先生には,まず胸痛の問診を丁寧にとっていただくことが重要ですね. 冠動脈CTは非常に簡便にでき,今までは冠動脈造影まで行うかどうか迷っていた患者,または冠動脈造影に対して不安感の強い患者にも,外来で検査を行えるようになり,大変普及してきたと思います.ただ,最近の反省点としては,少しやりすぎているのではないかと思います.健診のスクリーニングに使っている施設もありますが,被曝の問題などはどうでしょうか. 伊苅 その批判はおっしゃるとおりだと思います.CT検査ですから,それなりの被曝量があります.上手な冠動脈造影のほうが被曝量は少ないとの意見もあります.また,狭心症ではない症状の人に,「少し胸が痛い」というだけで,やみくもに冠動脈CTを行うのは問題です.やはり,問診によるスクリーニングが非常に重要だと思います. 前村 ある程度しぼってから行うには,非常にいい検査ですね. 水野先生は,開業医の立場で,胸痛を訴える患者さんを最初に診られることが多いと思いますが,どういう手順で狭心症を診断するか,またどのような場合に専門施設に紹介するかを教えていただけますか. 水野 最初の手順としては,いま伊苅先生がおっしゃったように問診を行い,そして心電図をとります.症状から,安定狭心症であっても狭心症が考えられる場合は,原則的に専門施設を紹介しています.血行再建の適応を決めることも重要ですが,適応がない場合でも診断を確定し,1枝病変/多枝病変などリスクを評価していくことは,患者さんのコンプライアンスを高めるうえで,またその後の外来管理を行ううえでも重要だと思います. 一方で,高齢者などで血行再建の適応がなくて,症状が安定していれば,薬物療法で外来診療を継続していくことは,十分に可能だと思っています. 前村 胸部症状があれば先ほどのような特徴を聞き出して診断できますが,虚血性心疾患の場合は,必ずしも症状があるとは限りません.水野先生,開業医の先生は糖尿病,高血圧や脂質異常症など,虚血性心疾患のリスクをもっている患者から無症候性の心筋虚血を積極的に見つけ出すのにどのような努力をされていますか. 水野 まず,リスクの重積があるかどうかについて,高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙,メタボリック症候群など,リスクを系統的に聞き出して評価していきます. その次に,臓器障害の有無を考えます.微量アルブミン量,eGFR(推算糸球体濾過率)の低下をもとにCKD(慢性腎臓病)を診断し,評価します.それから,心肥大,眼底所見などで,臓器障害をみていきます.頸動脈エコーや脈拍速度も有用だと思います. 最終的にハイリスクと判定した場合には,心電図を経時的にみていくことと,症状を慎重に聞き出すことが重要です.多枝病変になってきますと,典型的な胸痛を訴えなくても労作時に軽い息切れを訴えたり,症状が変化したりすることがありますから,それらを見逃さないように,日々の外来で気をつけていくことが大事です. もう1つ,そういう患者さんに関して,心電図異常があれば冠動脈CTを行う必要がありますが,心電図に異常がない場合は,先ほど前村先生がおっしゃったように,一律に冠動脈CTを行うわけにいきません.患者さんに急性冠症候群の概念を説明し,症状のポイントを伝えて,もしもの場合は早期に専門施設へ行くように指示を与えることも有用だと思っています. 前村 ご自分のところで,運動負荷心電図まで行いますか. 水野 先ほど伊苅先生がおっしゃった検査中のリスクがあるので,そうとう慎重に行っています. 前村 以前は,第一のスクリーニング法として運動負荷心電図を,特に医師が付き添わずにマスター負荷心電図を行っていましたが,不可逆的な虚血を誘発するなどの事故がありました.したがって,循環器専門医の立ちあいのもとで行うか,最近では画像検査を先に行う傾向がありますね. ■急性冠症候群患者への初期対応前村 次に,救急の患者,急性冠症候群が疑われる患者に,どう対処するかに移りたいと思います. 2000年の“New England Journal of Medicine”によると,AMI(急性心筋梗塞)だった患者の2%を帰宅させていたというデータがあります(N Engl J Med 342:1207-1210, 2000).確かに心電図上,典型的にSTが上がっている心筋梗塞なら誰でも見逃さないと思いますが,微妙な変化のみの場合,診断に迷うことも結構あり,胸痛患者を帰してしまうこともあります.伊苅先生,救急外来で心筋梗塞を身落とさないポイント,特に胸痛以外の訴えで来られた心筋梗塞の患者さんをどう診るか,また逆に激しい胸痛でも心筋梗塞ではない場合の鑑別について,いかがでしょうか. (つづきは本誌をご覧ください)
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