HOME雑 誌medicina誌面サンプル 47巻5号(2010年5月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会
時間外こそジェネラリストが活躍すべき!

発言者
林 寛之氏(福井県立病院救命センター)=司会
齊藤裕之氏(同善会クリニック)
山中克郎氏(藤田保健衛生大学一般内科/総合診療部)
太田 凡氏(湘南鎌倉総合病院救急総合診療部)


 本日は,お集まりいただきましてありがとうございます.「時間外こそジェネラリストが活躍すべき」というテーマで,救急患者への対応を中心に,ジェネラリストがどういう役割を果たしているのかという全般的な話ができたらと思っています.齊藤先生は開業医のスタンス,山中先生は一般内科と救急を含めたスタンス,太田先生は救急のスタンスで,それぞれお話しいただければと思います.

■ジェネラリストの優越と憂鬱

長い目で診る・マクロな視点で診る醍醐味

 ジェネラリストというと,それぞれに定義があると思いますが,私の定義は「なんでも屋」です.老若男女,来るもの拒まず,なんでもOKです.それでは,まず「ジェネラリストでよかった!」という武勇伝をお聞かせください.齊藤先生から,よろしいですか.

齊藤 わかりました.私は現在,クリニックを運営しておりまして,なんとか患者さんを増やそうと,どんな患者さんでも受け入れてきました.「たぶんどこの科でも受け入れてくれないんだろうな」と思うようなケースとして,例えば,めまいの患者さんがいます.大学病院や総合病院など,いろいろなところへ行ってもはっきりした診断がつかなくて,転々としている患者さんが,東京にはけっこう多い.有名な病院を受診しているにもかかわらず,なぜかうちのクリニックにも来るんですね(笑).「総合診療をやってる先生がいるみたいだから,あそこに行ってみたら? 何でも診てくれるみたいだよ」という地域住民の口コミが,かなり広がってきているお蔭で,非常にありがたいことです.

 またあるいは,整形外科で診てもらってもなかなかよくならないという右肩痛の患者さんです.そういう方は,うちのクリニックへ来るまでに,いろいろな検査をし終わっていますので,だいたいBiomedicalな診療アプローチをすでに多方面から行われており,原因臓器を絞り込んでいくミクロへの視点から,少し視点を変えてマクロな診かたをしようと思うわけですね.マクロへの診療アプローチというのは,患者さんの困っている健康問題(めまい,肩痛など)が家族や,住んでいる地域,働いている会社といった背景が影響しているのではないかという視点です.家庭内不和や仕事上のストレスがかかった時,そのストレスサインが,ある患者はめまいとして現れたり,ある患者は肩の痛みとして現れたりするわけです.これは,継続的に患者さんの健康状態を確認したり,少しずつ患者の問題に歩み寄るジェネラリストならではの強みですよね.そういう人に,例えばめまいのお薬を出したとしても,もしくは肩に注射をしたとしても,治るわけはありません.そのような場合に,どうしてそういう症状が出ているのかというアプローチ方法,問題解決にあたっての選択肢が多いというのが,われわれジェネラリストの強みなのではないかと思います.

 ありがとうございます.マクロに診ることと継続性ですね.まさしくホリスティックに患者さんを診ることだと思いますが,それは僕がいちばん羨ましいところです.一期一会の救急の世界から見ると,時間を武器にできるというのは,すごくいいですよね.

 山中先生,いかがですか.

山中 私は,語るような武勇伝はまったくないんですよ.むしろ失敗談のほうがたくさんあるくらいで(笑),「ああ,こんな病気だったのかぁ.見逃してたぁ」みたいなことを,研修医の先生に指摘されたりするのです.

 齊藤先生のお話を聞いていて思ったのですが,ジェネラリストとしてすごく嬉しいのは,例えば,めまい,失神,不明熱にしても,「何科にかかってもよくわからないんだけれど……」というシチュエーションで,「ああ,この病気だったんだ!」とわかるときですね.そういうときは,本当に「ジェネラリストをやっていてよかったなぁ」と思います.

 ですから,私は「本当の病気は何だ?」と常に考えながら患者さんを診るようにしていますし,「ひょっとしたら自分が知らない病気を見逃しているかもしれないな」と思いながら診療をしています.

 シャーロック・ホームズとか,江戸川コナンが言いそうな話ですよね.先生は,たしかシャーロック・ホームズがお好きですよね.

山中 大好きです.

 そういう謎解きが嫌で専門科に進む医師もおられるのかなと思います.私自身も外科をやっていた時は「うちじゃないよ!」というのがとっても好きな言葉でした(笑).“うちじゃない科”は楽だけれども,「結局,何だったんだろう」というモヤモヤは残ります.そういう意味で,山中先生が失敗談だとおっしゃるのは,実は成功しているということですよね.皆が,モヤモヤのままで逃げて行ったところから,最終的に見つける.それが先生の得意技であることを羨ましく思います.

 次に,太田先生お願いします.

さまざまな患者を診られる利点

太田 武勇伝というと派手なお話のほうがいいのかもしれませんが,むしろありふれた症状で,ときどき「これは当たったな」と思って,自分なりに嬉しいことがありますよね.

 例えば,冬場は胃腸炎が流行ってきて,吐き気の患者さんが次々に救急外来に来ますが,ときどきそのなかに,緑内障の発作の方が紛れていたりします.吐き気で受診してきても,よくよく話を聞くと「頭が痛い」,さらによく聞くと「ちょっと目が痛いような感じがする」.そして目を診ると瞳孔に左右差があって,緑内障ではないか.眼科の外来に行って,眼圧を測って高かったときには,患者さんには申し訳ないけれども,「当たった!」と思いますね.もちろん,そこから先は眼圧を下げるところまでが自分の治療の範囲で,虹彩レーザーによる治療は眼科医に紹介するということになります.けれども,その方を見逃さなくてよかったなと思うのは,自分なりの充実感を感じるときですね.

 さらには,そういう患者さんを一緒に働いている研修医が見つけてきたときには,もっと嬉しいですね.「すごいね.よく見つけたね」という喜びがあります.武勇伝といえるかどうかわかりませんけれども,「なんでも診ますよ」と掲げて実践しているからこそ,そうやって「当たった!」という喜びがあるわけで,それはいまの仕事で楽しいことの1つだと思います.

 単一科では糸口を見つけるのがなかなか難しい症状や疾患を広く診ていけるのが,ジェネラリストのいいところです.要するに,「専門は何ですか」と聞かれて,「専門がないのが専門です」と答えるのが,個人的には嬉しかったりします.でもそれが,患者さんには納得いただけなくて,ちょっと寂しい思いをすることもあります.

 僕の武勇伝は,時間外にいろいろな患者さんがやってくることで,さまざまな専門科の患者さんを診られることです.すごい疾患を見つけているというわけではなくて,多発外傷みたいなすごい重傷を診る人がいる傍らで,子どもが鼻に詰めたパチンコ玉を「耳鼻科を呼ばずにクリップで取ったぞ!」と患者さんのお母さんと研修医から,称賛の嵐を浴びる(笑).普通の時間帯なら,「耳鼻科へ行けよ」で終わっちゃうんですけど,そういうプチ武勇伝が,嬉しい.

齊藤 専門医の先生は,林先生が診療するお蔭で安眠できるという認識がおありなんですか.

 いい質問ですねぇ(笑).ある人は多いと思います.すべてを求めてはいけない.結婚と一緒です(笑).ハッピーな結婚生活のためには,お互いの歩み寄りが大切ですし,会話が大事ですね.

齊藤 はい(笑).

ジェネラリストの専門性はわかりにくい?

 ジェネラリストは,専門がないのが専門,または後方の診療科にお願いしないと,なかなか回せないというテリトリーの問題があると思うんですね.若い人たちから,「エーッ,あの人たちは専門がないんじゃないの?」みたいな感じで言われて,憂鬱になるようなことは,おありでしょうか.

(つづきは本誌をご覧ください)


林 寛之氏
1986年自治医科大学卒業.僻地医療に携わり,カナダ・トロント大学付属病院救急部にて臨床研修などを経て1997年より福井県立病院救命救急センター医長.日本救急医学会専門医,カナダ医師免許(LMCC),日本家庭医療学会指導医,日本外傷学会専門医.ハリセン片手に,「その気にさせるER&家庭医コース」で笑いと感動を文献まみれで熱血指導中.

齊藤裕之氏
2000年川崎医科大学卒業.川崎医科大学総合診療部,麻生飯塚病院,奈義ファミリークリニック,東京医大総合診療科を経て現職(亀田ファミリークリニック館山の指導医を兼任).日本プライマリ・ケア学会専門医,研修指導医.T&A動きながら考える救急初療(診療所設定の救急コース)のコースディレクター.プライマリ・ケア,家庭医療の舞台を中心に他専門分野と「学び合い」の連鎖を広げていくことに夢中.笑いと愛情のエネルギーを伝染し続けている.

山中克郎氏
1985年名古屋大学卒業.米国シアトルでの免疫学基礎研究,国立名古屋病院血液内科/HIV診療,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)一般内科研修,名古屋医療センター総合内科診療を経て,2006年9月から名古屋の東,藤田保健衛生大学に勤務.研修医の先生方や学生さんに対する,救急室でのベッドサイド教育が大好きです.流血の外傷が来ると,つい後ずさりしてしまう“草食系救急内科医”.

太田 凡氏
1988年京都府立医科大学卒業.同大内科学教室に入局後,京都第二赤十字病院救急救命センター勤務を経て2002年より湘南鎌倉総合病院に勤務,ER診療を開始する.知識と技術と経験は,いつになっても十分ということはないと悟りつつ,「ご専門は何科ですか?」との質問に,「救急です.どんな患者さんでも診させてもらっています」と答えることが自然になってきたかと思える今日この頃.