今月の主題●鼎談
腎臓病診療のメリハリ
―アンテナで引っ掛けて、ここまでは診て、そこから先は専門医に

発言者●発言順
片渕律子氏(国立病院機構福岡東医療センター腎臓内科)=司会
須藤 博氏(大船中央病院内科)
木村琢磨氏(国立病院機構東埼玉病院総合診療科)


片渕 本日はお忙しいなかありがとうございます.今回の鼎談のタイトル「腎臓病診療のメリハリ―アンテナで引っ掛けて,ここまでは診て,そこから先は専門医に」は,本号の特集タイトル「腎臓病診療のエッセンス」の重要なテーマの1つです.一般医と専門医における腎疾患診療の棲み分けがわかるストーリーにしたいと考えています.

■腎疾患はマイナーか?

片渕 私はずっと腎臓専門医として診療を行ってきました.紹介患者ばかりを診てきましたので,一般の患者の何%が腎疾患なのかがよくわかっていませんでした.現在の病院では,内科新患当番と称する,内科全般の新患を診て振り分ける係が順番に回ってきます.内科新患当番をしていて,腎疾患はかなり少ないことがわかりました.

 最近は,CKD(chronic kidney disease;慢性腎臓病)が心血管病のリスクファクターとして注目されていますが,それまでは自分たちでも腎疾患はマイナーだという意識がありました.でも,どれぐらいマイナーなのかがわからなかったので,当院で調べてみました(図1).

須藤 これを見ると呼吸器の患者が多いですね.

片渕 はい.当院はもともと結核療養所だったので,呼吸器がすごく強い病院です.次に消化器がやはり多いですね.そしてその次が循環器で,腎臓は平均4%ぐらいです.先生方,この数字をご覧になっていかがですか.

須藤 「こんなもんかな」と思いました.何をもって腎臓病というかによって,かなり違うとは思いますが…….

 外来で腎疾患として紹介される場合は,まず蛋白尿・血尿などの無症候性の尿異常かBUN,クレアチニンが上昇してきたという腎機能低下例ではないでしょうか.

 ネフローゼや腎炎症候群はすごく少ないと思うんです.ただCKDがらみで,高血圧から腎硬化症でクレアチニンがわずかに上がっているようなものと糖尿病性腎症,この2つを入れると,結構頻度は変わる気がします.

片渕 そうですね.当院は,糖尿病内科があるので,糖尿病性腎症の初期などは糖尿病内科が診ているかもしれません.

須藤 糖尿病の先生がどの段階で腎臓内科に依頼するかで,かなり頻度が違うと思うんですよね.一方で,救急で診ている腎疾患はクレアチニン,BUNの上昇というパターン,そのなかでもやはり腎前性がいちばん多いですよね.

木村 そうでしょうね.

須藤 木村先生は,腎前性の患者を診る機会がすごく多いのではないですか.

片渕 木村先生の病院はどういう特徴がありますか.

木村 当院は,急性期のみならず慢性期にも力を入れています.外来では初診・再診と,特定健診,後期高齢者健診もやっております.糖尿病と高血圧に伴う腎障害がほとんどです.病棟では,高齢者の脱水による腎前性腎不全や不明熱の患者をしばしば診ますので,ANCA(anti-neutrophil cytoplasmic antibody;抗好中球細胞質抗体)関連血管炎を経験することがあります.

 それから,訪問診療も行っていますので,透析の適応にならずに自宅にいらっしゃる終末期の腎不全の方にかかわることが多いです.

片渕 木村先生の病院には腎臓科は?

木村 ありません.そのため,頻度は高くありませんが,糸球体腎炎やANCA関連血管炎を疑う際など,生検が必要な患者は腎臓専門の先生へお送りしています.

片渕 ANCA関連血管炎は結構あり,特にお年寄りに多いです.木村先生のところはお年寄りが多いですか.

木村 多いですね.

須藤 当院は300床弱の中規模の私立病院ですが,鎌倉というところは90歳台の人も珍しくなく,圧倒的に入院患者は高齢者が多いです.老人保健施設や慢性期の施設から肺炎で入院するケースが多く,同時に腎機能低下を伴っていることがしばしばみられます.ですから,純粋の腎疾患はあまり多くありません.

木村 私もそう思います.

須藤 あとは,私のところも一般内科なので不明熱はよくあって,ANCA関連血管炎はポツポツと遭遇します.

片渕 結局,純粋なネフローゼやANCA関連血管炎はすごく少ないですが,ポツポツはいるので,やはりアンテナを張って引っ掛けなければいけないということですね.

■腎疾患を引っ掛けるアンテナは?

検尿結果をどうみるか

片渕 話題を移しますが,腎疾患を引っ掛けるアンテナとして,やはり検尿が最初に挙がると思います.以前,厚生労働省が特定検診の項目を選んだときに,尿蛋白を削ろうとしました.それで,日本腎臓学会が猛反対して尿蛋白は残ったのですが,クレアチニンが削られました.ですから,今度はCKDの診断でクレアチニンが非常に問題になってきました.しかしながら,私たち専門医からみると,やはり大事なのはクレアチニンより検尿,尿蛋白です.そこで,健診で検尿をすることで,腎死に至る率が減るかどうかのエビデンスを出しなさいという宿題が,厚生労働省から日本腎臓学会に出されています.

木村 健診時,蛋白尿が出ていたらさすがに異常所見と認識しますが,潜血陽性の取り扱いは難しいと感じています.実際には,尿潜血の結果も一緒に出てきますからね.女性で1+ぐらいだったらいいのですが,男性で1+が出た場合は判断に迷います.実際,それで悩ましいまま追加の検査をしたらIgA腎症だった人もいました.健診での尿潜血の解釈は悩ましい部分ですね.

須藤 私が腎臓病を学び始めた頃に恩師の先生から教わったことで覚えているのは,「血尿のみ(hematuria only),蛋白尿のみ(proteinuria only)はそんなに心配ないことが多いけれども,血尿&蛋白尿は必ず何かがある」ということです.だから,両方が陽性だったら,絶対に引っ掛けなければいけないと,研修医にも教えています.単独血尿,単独蛋白尿は重症例が少ないと感じています.

片渕 それはネフローゼ以外のことですね.

須藤 そうですね.分け方として,尿蛋白はmild proteinuriaとheavy proteinuriaと分けて,蛋白尿1+ぐらいで,血尿や円柱などを認めない場合は,それほど重症ではない可能性が高い.

(つづきは本誌をご覧ください)


片渕律子氏
1979年九州大学医学部卒業,第2内科入局.1982年福岡大学医学部第2病理にて竹林茂夫教授に師事.1985年医学博士.1988年New York大学腎臓病理,1989年福岡赤十字病院腎臓内科,2000年原三信病院附属呉服町腎クリニックを経て2006年より現職.腎臓専門医として腎疾患診療全般にあたっている.ライフワークはIgA腎症の組織による予後の予測と治療法の確立.著書として『腎生検診断Navi』(メジカルビュー社).モットーは女性として母として医師として欲張り人生を謳歌すること.

須藤 博氏
1983年和歌山県立医科大学卒業.茅ヶ崎徳洲会総合病院で5年間の内科研修後に,米国Good Samaritan Medical Centerなどで腎臓内科の臨床研修.1994年より池上総合病院内科,2000年より東海大学医学部総合内科を経て,2006年4月より現職.総合内科研修システム作りに努力中です.ようやく内科学会研修関連施設にもなり,一歩前進しました.

木村琢磨氏
長野県生まれ.日本獣医畜産大学中退.1997年東邦大学医学部卒業.医学生時代の診療所・在宅研修を契機にジェネラリストを志す.国立東京第二病院研修医,国立病院東京医療センター総合診療科レジデントを経て,2002年国立病院東京医療センター総合診療科医員.2006年より現職.外来・病棟・在宅診療,施設・保健・福祉へのかかわりなど,ジェネラリストとしてバランスのとれた臨床を追い求めている.