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今月の主題●座談会

患者さんによりやさしい内視鏡検査を求めて
――依頼医・施行医の立場から

発言者●発言順
緒方晴彦氏(慶應義塾大学病院内視鏡センター)=司会
小林清典氏(北里大学東病院消化器内科)
河合隆氏(東京医科大学病院内視鏡センター)
安岡博之氏(南赤坂クリニック)


緒方 今回の特集は「一般内科診療に役立つ消化器内視鏡ガイド」ということで,この座談会では研修医や一般内科の先生など,消化器が専門でない医師が内視鏡検査を依頼される際のポイントについてお話しいただきたいと思います.

 本日は大きく3つのテーマを取り上げたいと思います.1つめは,内視鏡を依頼するにあたっての基本的な事項とその心得,2つめは内視鏡検査における病診連携について.3つめは内視鏡検査の最新事情についてです.特に近年,開業医の先生でも上部消化管の内視鏡検査はご自身で行われるという方が増えており,中でも経鼻内視鏡は,患者さんへの負担が軽いという点でも非常にインパクトのあるディバイスです.開業医の先生が経鼻内視鏡を導入する際に注意すべきことについて,後ほど経鼻内視鏡の専門家である河合先生にお話しいただき,一般内科の先生にフィードバックできればと思っております.

■下部消化管内視鏡の適応について

緒方 では,最初に内視鏡検査の依頼の基本とその心得についてですが,小林先生,河合先生が日ごろ内視鏡検査の依頼を受けられる際,一般的にどういった症例があるか,適応という観点からお話しいただけますか.

小林 まず大腸内視鏡検査については,大きく分けて「診断」「治療」「フォローアップ」の3つが主な適応となります.具体的には,血便・下痢・腹痛や便潜血などで大腸疾患が疑われる場合の「診断」,大腸ポリープのポリペクトミーや出血例に対する内視鏡を用いた止血処置などの「治療」,ポリペクトミーや炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)に対する内科治療後の「フォローアップ」などが適応として多いです.

緒方 河合先生はいかがでしょう.

河合 いろいろなケースがありますが,開業医の先生が当院に内視鏡検査を依頼される場合,やはり消化管出血が多いですね.他には「ポリペクトミーをしてほしい」「ポリープを生検したらカルチノイドだったので,それを内視鏡的に治療してほしい」などの要望もあります.

小林 開業医の先生からの依頼では,健康診断で便潜血が出たので精査をしてほしいというのがいちばん多いですね.

■健診での「便潜血陽性」への対応

河合 例えば30代の方が健診で便潜血陽性だった場合,昔は「痔かなあ」ということでもう一度便潜血検査の2回もしくは3回法を行い,すべてが陰性なら「大丈夫ですよ」と言っていました.最近は,30代でも癌の発見率が増加しているので,「1回は内視鏡検査をやっておきましょう」と言っているのですが,いかがでしょうか.

小林 大腸内視鏡による精査をされたほうがいいと思います.便潜血陽性で受診された患者さんに再度便潜血検査を行い,「陰性だったので大丈夫です」という医師がいますが,それではいけないと思います.便潜血が複数回のうち1回のみ陽性でも,大腸内視鏡検査を行うと癌やポリープがみつかる患者さんが数多くおられます.確かに30代では癌の危険性は低いでしょうが,近位大腸の癌や表面型の癌などでは便潜血が陽性になりにくい傾向があります.便潜血が1回でも陽性の場合は,大腸内視鏡検査を勧めていただいたほうがいいと思います.特に50代ぐらいからは大腸癌のリスクが増えてくるので注意が必要です.

緒方 注腸検査ではだめでしょうか.

小林 注腸検査でもかまいませんが,注腸検査で何らかの異常が疑われた場合,最終的には大腸内視鏡検査を受けていただく必要があります.実際,こういうことを患者さんに話しますと,最近では注腸検査でなく大腸内視鏡検査を希望される方が増えています.当院では,便潜血などの精査に用いる検査法が,注腸から大腸内視鏡にシフトしている状況があります.

安岡 当院は予防を中心とした人間ドックが中心で,年間840~950名を診ていますが,私は便潜血があれば,まず注腸検査を行うようにしています.

 というのも今,アメリカのデータでは内視鏡検査に伴う危険性を鑑みると,だいたい3年に1度の施行でリスク管理できるとしており,さらには最近では5年に1度でもいいとも報告されております.それもあって,内視鏡検査に伴う穿孔や出血のリスクを考えれば,便潜血が陽性と出たらまず注腸検査をし,ポリープがあれば内視鏡検査をお願いしています.

小林 注腸をやるか,内視鏡をやるかは,施設の状況によって,どちらをメインにやっているかでも変わってきます.当院では内視鏡をメインにやっているので,そちらを勧めています.

安岡 便潜血陽性が出ていなかったとしても,こういう場合は内視鏡検査を行ったほうがいいというものはありますか?例えば遺伝的な素質の有無などですが.私は若い患者さんでも,その方のおじいちゃんもおばあちゃんも大腸癌で亡くなっている場合には「若いけど念のために注腸検査をやっておいたほうがいいですよ」と勧めています.このような患者さんの環境的もしくは遺伝的な要因まで聞けて判断できるのは,地域に密着した開業医の先生方の得意とするところではないかと思いますが.

小林 家族歴は重要ですね.両親が大腸癌の場合,当然子どもも癌になるリスクが高くなりますので,より気をつけたほうがよいと思います.

(つづきは本誌をご覧ください)


緒方晴彦氏
1983年慶應義塾大学医学部卒.同大学内科研修医を経て,87年同専修医(消化器内科専攻),93年から97年にかけてHarvard大学医学部(Massachusetts General Hospital)留学.帰国後2000年より慶應義塾大学病院内視鏡センター助手,専任講師を経て2007年より同センター長.2009年6月より教授.専門は炎症性腸疾患,カプセル内視鏡・下部消化管内視鏡を用いた診断・治療法の開発.

小林清典氏
1983年北里大学医学部卒,同大学病院内科研修医.94年に博士号を取得.小田原市立病院消化器科医長などを経て,95年より北里大学医学部消化器内科講師.専門は下部消化管疾患,とくに慢性炎症性腸疾患の診断と治療,大腸腫瘍の内視鏡診断と治療などを中心に,北里大学東病院で診療や研究を行っている.

河合隆氏
1984年東京医科大学卒業.2008より東京医科大学教授(内視鏡センター).日本内科学会認定医・総合内科専門医,日本消化器病学会専門医・指導医,日本消化器内視鏡学会専門医・指導医,日本消化器内視鏡学会評議員,日本消化器病学会評議員,日本ヘリコバクター学会評議員,日本潰瘍学会評議員.日本消化器内視鏡付置経鼻内視鏡研究会世話人.

安岡博之氏
1983年慶應義塾大学医学部卒業.87年同大学病院放射線診断科にて専修医修了.その間米国ジョンズホプキンス病院等にて最新のInterventional Radiologyおよび早期予防について学ぶ.90年南赤坂クリニック開設.心身両面からのケアを目的とした会員制予防医学人間ドックを提供,現在に至る.著書に『シーフードベジタリアン』(VOVYS刊),「妻はなぜ夫に満足しないのか」(角川ONEテーマ21)などがある.