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今月の主題●座談会

糖尿病診療における
専門医と一般医のコラボレーション

発言者●発言順
山守 育雄氏(名古屋第一赤十字病院内分泌内科)=司会
野﨑 士郎氏(のざき内科循環器科クリニック)
佐久山雅文氏(岩手県立東和病院内科)
山村 祐嗣氏(山村内科)


 2006年国民健康・栄養調査によると,糖尿病が強く疑われる人は約820万人,可能性が否定できない人は約1,050万人と推定されている.

 増え続ける患者,コントロール不十分や未受診の患者に対し,専門医と一般医,医師とコメディカルがどう連携し,診療にあたっていくか.本座談会では,診療現場の問題を挙げ,血糖コントロール,治療継続のためのマネジメントなど,一般医と専門医および医師とコメディカルとの効果的な連携について,糖尿病診療に携わる一般医・専門医の先生方にお話しいただいた.


山守 本日は増え続ける糖尿病患者を,専門医と一般医がいかに協力し合って上手に管理していくか,についてご一緒に考えたいと思います.

 はじめに一般医のお2人から,糖尿病の診療上で感じておられる問題点や苦労についてご紹介いただきます.まず,野﨑先生からお願いします.

■糖尿病診療の問題点と苦労-一般医の立場から

野﨑 開業して1年目で,高血圧や不整脈の患者さんを主に診ていますが,やはりHbA1cが7%台程度の糖尿病が頻繁に見つかります.どのように治療していくかは,選択肢が増えただけに困るところです.

 最近は,いい薬がたくさんできて,検査データが簡単によくなるようになりました.それに対する批判もあると思うのですが,薬の使い方について,専門医でも趣向がかなり違います.当院の近くの基幹病院にも,糖尿病がご専門の地域のリーダー的先生が2人いらっしゃるのですが,お一人は,「スルホニル尿素(SU)薬を積極的に使ってもいい」,もう一人は「SU薬を一切使わない」とまったく方針が違うのです.両方とも立派な先生なので,どちらを信じていいのかわからない.そのような場合,一般医としては悩みます.

 あと,食事指導,生活習慣指導は非常に難しい.例えば私たちは,さっき食べた昼食が何kcalあったかといわれても,実際はよくわかりません.したがって,患者さんに対しても,私自身は戦時中の体験はないにもかかわらず(笑),「戦時中の食事にしなさい」と言ってみたり,患者さんから,「先生,私は何を食べたらいいですか」と問われたら「何を食べるかよりも,いかに食べないかを考えなさい」などと,観念論的なことしか言えないのです.

 しかし,「それではわからない」と言われまして(笑),管理栄養士にときどき来てもらうようにしました.やはり専門家は,話の引き出し方がとてもうまい.「夜中にソフトクリームを食べることがある」など,私には決して言わなかったことを管理栄養士には言うのです.自分が未熟だと感じました.

山守 たぶん,患者さんのなかには「医者には嫌われたくない」という思いがあり,「やらなきゃいけない」とわかっているがゆえに,医師に弱い部分を見せづらいのでしょうし,それは実際によくあることです.そういう意味で,管理栄養士に限らず,コメディカルが本音を引き出せるのはすばらしいと思います.

 佐久山先生のところではいかがですか.

佐久山 私は,健診や人間ドックの結果を持ってきてもらいます.それを見ると,空腹時血糖,食後血糖,とさまざまですが,明らかに糖尿病と診断される人たちが,その数値がわかってから実際に受診するまでに半年かかっています.前年の記録を持ってくる人さえいます.健診結果が受診行動につながっておらず,働き盛りの人たちが治療から漏れてしまっている.これがいちばんの問題だと,いつも感じています.

 自覚症状のない人たちがほとんどですので,自分から受診することはあまりありません.健診で異常が見つかり,精密健診の通知が届いてようやく受診するわけですが,それも一部で,ほとんどの人は来ません.何か症状が起こってから来る人たちが多く,非常に残念だと思っています.

 治療に関しては,私が研修医だった20年前には,経口薬はSU薬が中心でしたし,インスリンは速効型と中間型がある程度でした.全尿中のC-ペプチドを測ると,非常にたくさん出ている.「こんなにインスリンが出ているのに,なぜこの人は血糖が高いのだろう」と当時は思いました.今だったら,インスリン抵抗性やインスリン遷延性過分泌型に該当するのだと納得できます.インスリン製剤も,超速効型や持続型が出てきていますが,その特徴や使用法を自分で勉強し試行錯誤しながら診療に取り入れております.

■糖尿病診療に対する問題意識-糖尿病を多く診る医師の立場から

 山村 私の一番の専門は糖尿病ではありますが,糖尿病専門医の資格は取っていません.表向きは一般の内科診療所です.当院にも,健診で糖尿病の受診を促されながら,2年,3年と受診しないままだった方が何人もいます.会社や健保組合によっても違うと思いますが,もう少し上手に管理できないかと感じています.もちろん,指示されても受診しない本人が悪い面もあるのでしょうが.

 かといって,患者さんに「なんでここまで放っておいたの!」と言うのは,百害あって一利なしだと思います.せっかく受診された方にそう言っても,これからの治療に対して何の役にも立ちません.せっかく思い切って来られたのですから,まずは「よく受診されましたね」「いまからちゃんと治療していけば,普通の方と同じように過ごせますよ」というような言葉をかけて,無用な不安を煽るようなことは避け,「これから一緒に頑張っていきましょうね」という対処をすれば,患者さんと医師の関係もうまくいくと思います.

 患者さんへの動機づけの困難さや,行動変容の難しさについていえば,「こういう血糖コントロールだったら合併症がどうなっていくか」について,できる限りデータを具体的に示して,「そうならないためには,こういう血糖コントロールをしていくのがいいでしょう」,「そうすれば,普通の方と同じ人生が歩めますよ」,というかたちでお話しして,治療を開始するのがいいだろうと思います.最も重要なことは,治療を中断させないことだと思います.

山守 ありがとうございました.

 糖尿病患者が増え続ける一方で,先生方のところへみえても,治療を中断される方は非常に多いと思います.「一般医のところだから」というだけの理由で中断されるわけではないという事実があります.図1をご覧ください.これは,JDDM(Japan Diabetes Clinical Data Management Group;糖尿病データマネジメント研究会)スタディといいまして,わが国の糖尿病専門医たちの共同研究によるものです1)

(つづきは本誌をご覧ください)

文献
1)Sone H, et al:Outcome of one-year of specialist care of patients with type 2 Diabetes;A multi-center prospective survey (JDDM 2). Internal Medicine 45:589-597, 2006 (http://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/45/9/589/_pdf,またはDOI:10.2169/internalmedicine.45.1609)


山守 育雄氏
1982年岐阜大学医学部卒業.国立名古屋病院で研修後,静岡済生会総合病院,名古屋大学医学部第一内科,愛知県総合保健センターを経て,1991年より名古屋第一赤十字病院で内分泌内科の臨床に従事.2001年より第三内科部長,2007年より現職.

野﨑 士郎氏
1985年杏林大学医学部卒業.香川医科大学(現 香川大学)附属病院で研修後,大阪労災病院内科を経て,1992年より香川大学医学部附属病院検査部助手.心臓超音波診断学の研究に従事.2003年より愛媛労災病院健康診断部部長の後,2006年香川県高松市にて開業.

佐久山雅文氏
1985年秋田大学医学部卒業.平鹿総合病院で研修.秋田大学医学部第三内科で血液学専攻.1996年より岩手県立東和病院にて内科一般の診療に従事.

山村 祐嗣氏
工業大学電子工学科卒業後,電子部品の開発の仕事に従事.その後,近畿大学医学部に入学し1994年同大を卒業.京都第一赤十字病院にて内科全科,小児科,麻酔科をローテイト研修.その後,同病院糖尿病内分泌科,精華町国民健康保険病院内科を経て,2000年山村内科を開業し現在に至る.