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今月の主題●座談会

内科医に役立つ女性診療のコツ

発言者●発言順

武田 裕子氏(三重大学大学院医学系研究科地域医療学講座)=司会
山田 康博氏(東京医療センター総合内科)
井上真智子氏(東京ほくと医療生協・北足立生協診療所)
西村 真紀氏(川崎医療生協・あさお診療所)
大滝 純司氏(東京医科大学病院総合診療科)


 “ウィメンズ・ヘルス”,“女性診療”と聞くと,特に男性医師には「難しい」,「特別な知識や手技が必要」と感じられるかもしれない.しかしながら,実は身近なもので,女性の特性やライフサイクルを理解することにより,日常診療で実践できることも多い.

 そこで,女性診療の経験を踏まえ,女性患者を診るコツと女性のquality of health向上のためにすぐできることについて,お話しいただいた.


武田 本日はウィメンズ・ヘルスをテーマに4名の先生にお集まりいただきました.ウィメンズ・ヘルスは何となく敷居が高くて内科医には縁遠い領域と思われがちですが,実際はとても身近なものだということをお話しいただければと思っています.

 最初に自己紹介をお願いします.

山田 卒後4年目で,東京医療センターの総合内科で後期臨床研修のレジデントとして働いています.週に1コマの初診外来と1コマの再診,ほかに病棟業務,二次救急を担当しています.女性患者さんと最初に出会う機会は,初診もしくは救急外来に救急車で来られたときになります.

井上 東京ほくと医療生協の北足立生協診療所で所長として働いています.診療所の標榜科目は,内科・小児科・外科・婦人科ですが,実際には赤ちゃんから超高齢者まで,プライマリ・ケアで遭遇するあらゆる問題を診ています.診療を行っているのは,家庭医や家庭医を目指す研修医などです.私はここで,日々,外来と訪問診療にかかわっています.

武田 井上先生ご自身のトレーニングは,どういう領域でされたのですか.

井上 私は卒業後,産婦人科に入局して,産婦人科医としてのトレーニングを行い,その後,家庭医を目指して研修をしました.現在はウィメンズ・ヘルスを取り入れながら,家庭医として診療しています.

西村 私も家庭医で,卒後11年目です.井上先生のいらっしゃる東京ほくと医療生協で研修医時代を過ごし,家庭医になる研修を経て,昨年から川崎医療生協に就職しました.

 新百合ヶ丘にある,あさお診療所という小さな診療所の所長をやっています.ですから,特にウィメンズ・ヘルスに取り組んでいるわけではなくて,普通の“町医者”です.昼間の外来は,女性が圧倒的に多く,男の人が少ないですね.

大滝 私は,卒後25年目で,総合診療,プライマリ・ケア,家庭医関係の領域に携わってきました.主に大学で働いてきて,現在の東京医科大学(以下,東京医大)には2年前から勤務しています.東京医大には3つの病院がありますが,私のいる本院は西新宿にあり,石を投げれば東京都庁に当たるくらいの場所に位置しています.大学の教員なので,教育,研究ももちろんしていますけれども,週に3~4回,総合診療科の外来で,臓器別の紹介状を持たない人たちを中心に診ています.時間外外来(夜間の当直外来)も,少しやっています.

 東京医大は,丸の内線の西新宿駅に直結していてアクセスがよいために,コモン・ディジーズの患者さんが非常に多い.患者さんには沿線の住民が多いのですが,路上生活者や外国人,また新宿歌舞伎町で働いている方々も多いです.路上生活者は,役所で医療券を受給されて受診する人が多いようです.外国人が多いのは,近くに大きなホテルが林立しているからでしょう.歌舞伎町からは風俗業関係に従事している患者さんが多く,性感染症やそれに関する問題が多いです.

 いろいろな患者さんがいらっしゃるので,自分自身のトレーニングになると思いながら診療しています.

■ウィメンズ・ヘルスは男性医師禁制?

武田 山田先生は後期研修中とのことですが,ウィメンズ・ヘルスというのは,どのようなイメージでしょうか.

山田 ウィメンズ・ヘルスと聞いたときに,「こういう単語があったんだ」と思いました(笑).「女性外来」という言葉はよく聞いていて,私が以前勤めていた,九州の100床ぐらいの病院では,ちょうど「なでしこ外来」という名称の女性外来を始めたところでした.そこは,看護師や臨床検査技師など,スタッフが全員女性で,男性医師は近寄れないところでした.

西村 つまり,そこでは,男性医師は研修もできないわけですね.

山田 そうです.中にも入れません.ですから,女性外来というと非常に特殊な外来であるというイメージがあります.

武田 見学はできたのですか.

山田 いえ.患者さん向けのパンフレットには,「なでしこ外来が始まりました.男性はいっさい入りません」という一文が入っているほどで,「これは入れないな」と思いました(笑).

武田 すると, 「ここは何なんだろう」と想像しながら,前を通り過ぎていたという感じですか.

山田 その通りです.

武田 井上先生は,女性外来に取り組んでおられるということですが,先生のところも男子禁制ですか.

井上 うちは普通の診療所ですので,スタッフには男性も女性もいます.男女比でいえば,女性のほうが多いです.「ウィメンズ・ヘルスの研修をしたい」という男性医師の要望を聞くことがたまにありますが,今のところは,受け入れていません.

西村 その理由は何でしょう?

井上 男子禁制ではないのですが,ウィメンズ・ヘルスには,婦人科手技を伴いますので,やはり「女性医師に診てもらいたい」と言っていらっしゃる患者さんが多いという点があります.家庭医研修ではもちろん男性医師もいますし,家庭医としてウィメンズ・ヘルスを勉強することは可能です.

西村 たしかに,男性の産婦人科研修は難しい.前の職場で,婦人科検診の研修をさせてもらいました.しかし,私と同じように家庭医研修をしていた男性研修医が研修を希望したら,男性だという理由で許可されませんでした.そこの責任者は男性医師ですが,検診は健康な女性が来ているので,男性医師は困るということでした.

 こういう状況ですから,男性研修医たちが婦人科手技の研修先を探すのは,難しいと思います.井上先生のところでも難しいとなると……もう少し時代が変わればいいなと思います.

井上 家庭医や一般内科医が必要に応じて内診などを行うのは普通のことだという認識を,皆がもつようになってくれば,状況も変わるかなと思うのですが,もう少し時間が必要そうです.

武田 先ほど,井上先生の診療所で標榜されているのは,内科,小児科,外科,そして婦人科といわれていました.ウィメンズ・ヘルスは婦人科外来としてされているのでしょうか.

井上 当診療所では,女性外来は開設していません.家庭医外来のなかであらゆる問題を扱っています.特に女性の患者さんを診るときには,婦人科的な問題ももちろん入ってきますので,それにも対応して診ています.

(つづきは本誌をご覧ください)


武田 裕子氏
1986年筑波大学医学専門学群卒業.同大学院博士課程修了後,1994年までベスイスラエル病院内科研修.米国内科専門医取得.1997年筑波大学附属病院卒後臨床研修部講師,2000年琉球大学医学部附属病院地域医療部講師,2005年東京大学医学教育国際協力研究センター准教授.2007年8月より現職.

山田 康博氏
2004年久留米大学医学部医学科卒業.同年,同大学前期臨床研修プログラムにて研修終了後,2006年独立行政法人国立病院機構東京医療センター,後期臨床研修プログラム・総合内科にて後期研修を開始.「一期一会」を座右の銘として,温かい医療を目指し,日々診療に取り組んでいる.

井上真智子氏
1997年京都大学医学部卒業.大阪大学医学部附属病院産婦人科などを経て,日鋼記念病院・北海道家庭医療学センターで家庭医療研修.2002年東京ほくと医療生協・北足立生協診療所勤務.2005年より同所長.北部東京家庭医療学センター,医療生協家庭医療学レジデンス東京の指導医,日本プライマリ・ケア学会専門医,東京医科歯科大学医学部臨床講師.

西村 真紀氏
1997年東海大学医学部卒業.東京ほくと医療生協・王子生協病院および生協浮間診療所にて家庭医療研修.2005年茅ヶ崎中央病院家庭医療センター長.2006年より川崎医療生協・あさお診療所所長.医療生協家庭医療学レジデンシー東京の指導医,日本プライマリ・ケア学会専門医,日本家庭医療学会理事.

大滝 純司氏
1983年筑波大学医学専門学群卒業.同年,川崎医科大学研修医,1988年同大総合臨床医学講座講師,1990年筑波大学附属病院卒後臨床研修部講師,1996年ベスイスラエル・ディコネス・メディカルセンター総合診療科客員研究員,1998年北海道大学医学部附属病院総合診療部助教授,2002年東京大学医学教育国際協力研究センター助教授などを経て,2005年より現職.