HOME雑 誌medicina誌面サンプル 44巻10号(2007年10月号) > 今月の主題●座談会
今月の主題●座談会

外来で診る喘息とCOPD
一般内科医・研修医のために

発言者●発言順

滝澤始氏(帝京大学医学部附属溝口病院第四内科)=司会
加藤冠氏(東京健生病院)
平田曉識氏(帝京大学医学部附属溝口病院第四内科)
安田敏男氏(安田内科小児科医院)


 日常診療で頻繁に遭遇する喘息やCOPDにどう対応するかは,プライマリケアの最前線を担う一般内科医や,救急外来で多くの患者を診る若手医師・研修医にとって大きな課題だ.

 「最新ガイドラインに基づく喘息とCOPDの診療」をテーマ掲げた本号では,両疾患の診療の最前線で活躍される4人の医師にお集まりいただき,「喘息とCOPDの一般外来での診かた」についてわかりやすくお話しいただいた.


滝澤 ご存知のとおり,喘息は,大人の3~5%が罹患しているという,たいへんよくみられる病気です.そして,先日の新聞には,小児喘息の有病率が6%であるという記事が載っていましたが,私は,10%近いかもしれないという印象をもっております.

 一方のCOPD(chronic obstructive pulmonary disease,慢性閉塞性肺疾患)は,中高年以降の病気であって,多くはタバコが基盤にあるといわれております.ゆっくり進行して,一見喘息とは対極的な位置にあるようですけれども,先生方もご存じの通り,しばしば鑑別が難しく,あるいは合併しているということもあり,治療法でも,常に悩むところだと思います.

 本日は,「喘息とCOPDの臨床」をテーマに,さまざまな診療上のコツをお聞かせいただければと思います.

■喘息,COPDというコモンディジーズ

加藤 私は,大学を卒業してすぐに,東京健生病院に入り,初期研修を行いました.そのまま一般内科医として残り,都心部の地域医療(プライマリケア)に従事しております.

 私の病院には,1年間外部の病院で勉強することができるという研修制度があり,2001年度にそれを活用して,さまざまな病院で,呼吸器の研修を行いました.滝澤先生のところでは,スパイロメーター(spirometer,以下スパイロと略)の関係でお世話になりました.この2001年というのは,ちょうどGOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)がまとまり,NICE(Nippon COPD Epidemiology)スタディの結果なども出て,かなりCOPDが話題になってきた時期でした.国立国際医療センターでの研修では,工藤宏一郎先生に,喘息のアーリー・インターベンション(early intervention)の考え方と実践について学ぶことができましたが,そのような経験を通して,喘息もCOPDも,コモン・ディジーズであるという認識をもつようになりました.

■早期診断・早期治療がテーマに

加藤 中規模の病院では,一般外来に来ている人のなかに,潜在的にかなりの数のCOPD患者がいるのではないかと感じ,自分の病院にとってCOPDや喘息の早期発見が重要なテーマになるのではないかと気づきました.大きな病院の専門の先生の外来というのは,既にある程度の診断がついた方が行かれますので,むしろわれわれは,早期に発見して,早期の治療に結びつけなければいけないのではないかと考え,この数年間,それを仕事の中心に据えております.

平田 私は,2年前に帝京大学を卒業して,そのまま帝京大学附属溝口病院へ初期研修で入りました.そして,3年目の今年,第4内科に入局して,腎臓を専門にやっていこうと考えております.

 私の場合,喘息・COPDについては,救急外来や外来で出会うことが多いのですが,そこでどう対処したらいいのか,治療はどうやっていくのかということについて,本日,先生方からお教えいただけたらと思っています.

■地域における喘息とCOPD

 安田 私は,静岡県御殿場市で内科・小児科の医院を開業して12年目になります.無床の診療所で,成人の患者さんと小児科の患者さんがほぼ半数ぐらいですが,地域のホームドクターとしてプライマリケアを担っています.

 先日の文部科学省の発表によると,すべての公立小中学校を対象にした調査では,喘息の児童数が73万人,ほぼ18人に1人の割合だということが報道されました.私は幼稚園の園医や小中学校の校医をしておりますが,この報告どおり,アトピー性皮膚炎,花粉症,喘息の患者数が増えていることを実感しています.

 また,COPDはタバコ病といわれるように,ヘビースモーカーに多い病気ですが,受動喫煙によってタバコを吸っていない人にも健康被害があるとわかっているのに,日本ではいまもって禁煙になっていない場所が多数あります.特にレストランや人の多い場所を早く禁煙にする必要があると考えています.

■どこで喘息・COPDを疑うか?

滝澤 以上の先生方のお話からも,喘息とCOPDが増えていることがわかりました.安田先生,喘息もCOPDもたいへんコモンな病気なわけですが,どのようなときに,「これは喘息だろう」「これはCOPDかな」,あるいは「そのどちらかな?」とお考えになりますか.

■喘息を疑うきっかけ

 安田 喘息は,発作性の咳,反復性の咳,喘鳴,呼吸困難があれば疑うわけですが,運動時の呼吸困難や,夜間・早朝の発作性の咳のある人も疑います.また,患者さん本人のアトピー性皮膚炎や花粉症など,他のアレルギー性疾患の有無や家族歴も参考にしています.

滝澤 喘息の典型例は,先生がおっしゃるとおり,話を聞いただけで疑いますよね.非典型的で難しいケースには,どのようなものがありますか.咳だけですと,難しいですよね.

 安田 ええ.かぜ症状で来たというようなケースの場合に,急性気管支炎との鑑別が大変難しいところだと思います.

滝澤 加藤先生,“咳喘息”という言葉が,最近よく使われますが,咳を主訴にいらした方で,それが単なる気管支炎や感染症ではなく,咳喘息,あるいはCOPDだというのは,どうやって鑑別したらよろしいでしょうか.

加藤 まずは,問診だと思います.咳喘息をどういうときに疑うかということと関係がありますけれども,「かぜがなかなか治らないのです」と言う方が,けっこう多いですね.よくよく聞いてみると,1~2週間も前からかぜを引いていると言われる.かぜでそういうことはあり得ないですから,よく話を聞いてみると,かつてもそうやってかぜを引くと1週間,2週間,咳が続いたというケースが結構あります.そういうときには,いちおう喘息を疑って,さまざまな検査を進めることになります.

 ただ,実際に検査を進めても,「これは咳喘息だ」と診断できるかというと,なかなかそこまでに至らない…というよりも,むしろ咳喘息というのは,純粋に咳だけということになると思いますが,よく聞いてみると,「夜中にヒューといっていた」といわれたり,痰を伴っていたりと,ピュアな咳喘息というのは,実はあまり経験しておりません.調べてみると,実はGERD(gastro esophageal reflux disease,胃食道逆流症)だったとか,SBS(sinobronchial syndrome,副鼻腔気管支症候群)だったこともあります.

滝澤 いまの加藤先生のご指摘は非常に重要で,問診票を書いていただくと「咳」と書く方は多いのですが,よくよく聞くと,10年前に夜中にヒューとか,ゼーゼーとかいったことがあって,救急で点滴してもらったら楽になったなどとおっしゃる患者さんは多いですね.「咳」を訴えられる方の半分以上は,「(以前に)ゼーゼーしたことがある」というところにチェックされます.それをきっかけにいろいろ聞き出していくと,咳喘息ではなく喘息なのですね.安田先生がおっしゃったとおり,これまでの臨床症状の流れを丁寧に聞きだすと,わりと容易に診断がつくかもしれないですね.

■COPDを疑うきっかけ

滝澤 COPDはどうでしょうか.

(つづきは本誌をご覧ください)


滝澤始氏
1979年東京大学医学部卒業,同附属病院内科研修医.81年公立学校共済組合関東中央病院勤務,84年東京大学医学部附属病院助手.88年アメリカ合衆国ネブラスカ州立医科大学呼吸器内科留学.帰国後,東京大学医学部附属病院検査部講師,東京大学医学部附属病院呼吸器内科助教授を経て帝京大学医学部附属溝口病院第四内科教授.専門は呼吸器,アレルギー内科.

加藤冠氏
1991年東京大学医学部卒業.卒直後より東京健生病院での初期研修を経て内科医として都心部でのプライマリケアに従事.2001年度に同院の研修制度で東大病院,都立駒込病院,国立国際医療センター,国立療養所東京病院などで呼吸器内科の研修を受け,以後COPDの早期発見など,プライマリケア医の立場から病院での呼吸器診療を継続.同院の初期臨床研修プログラム責任者,副院長.

平田曉識氏
2005年帝京大学医学部卒業,2007年帝京大学医学部附属溝口病院にて初期研修終了.同年帝京大学医学部付属溝口病院第四内科入局.専門は腎臓内科.

安田敏男氏
日本航空勤務の後,1983年帝京大学医学部卒業.卒後研修後,公立学校共済組合関東中央病院,茅ヶ崎市民病院,他勤務後,ICUでの経験を生かして,95年より地域のホームドクターとしてのプライマリケアに努めるべく御殿場市で開業し診療中.御殿場市医師会理事.御殿場市就学・就園児童委員会委員長.