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【特集】

糖尿病診療の“Q”
現場の疑問に答えます

能登 洋(聖路加国際病院内分泌代謝科)


 糖尿病診療は近年,大きな変貌を遂げています.すなわち,患者数の急増,高齢患者の増加,肥満患者の増加,多くの新たな治療薬とそのエビデンス登場などです.現在,日本の糖尿病患者数は約1,000万人と推算されています.重症低血糖に関連するリスクが再着目されるようになり,血糖コントロール目標値については“the lower, the better”という一律な考えはすっかり過去のものとなり,個別化設定が推奨されています.また,糖尿病の合併症といえば細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)と大血管症(心血管疾患)ですが,糖尿病はそのほかにも癌,歯周病,骨粗鬆症,認知症,うつ,感染症などとの関連性が高いことも脚光を浴びてきています.実際,日本人糖尿病患者の死因は癌が1位,感染症が2位,心血管疾患が3位です.そのため,糖尿病非専門医も糖尿病診療スキルを磨いていかなければなりませんし,糖尿病は全身疾患であるのでチーム医療・院内連携・病診連携の充実化も求められます.

 日本糖尿病学会は診療ガイドラインを3年ごとに改訂しており,本号と同時期に2019年版が発行されます.このガイドラインはQ&A形式で読みやすく多岐にわたる分野をカバーしているものの,薬物選択の優先順位が明示されていないなど実用性に乏しい面が少なくありません.また,推奨根拠となるランダム化比較試験はエビデンスレベルとしては最高ではありますが,必ずしも実臨床にそのまま適応できるとは限りません.EBMはエビデンスだけでなく,患者の意向・医師(医療チーム)の臨床的実践技量をバランス良く統合していく実地アクションです.

 そこで本特集では,エビデンスに加え,豊富な臨床経験に基づいたリアルワールドでの診療術を実地エキスパートである先生方に解説していただきました.単なる知識の伝授ではなく,「なぜ?」「何のために?」という観点での活きた包括的解説が特長です.対話や語り(narrative)を主体としたartにも重点を置いています.症例も多く取り入れ,薬剤の使い分け・投与量設定や患者指導のコツなどもわかりやすく説明していただきました.

 なお,各種ガイドラインへの橋渡しとなる『糖尿病標準診療マニュアル(一般診療所・クリニック向け)』1)や『糖尿病受診中断対策マニュアル』2)も本特集と併せて活用されることをお薦めします.

文献
1)日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会(編):糖尿病標準診療マニュアル 一般診療所・クリニック向け(第15版),2019(2019年4月閲覧)
2)国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター(編):糖尿病受診中断対策マニュアル,2014(2019年4月閲覧)