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【特集】

超高齢時代の内科診療

福原 俊一(京都大学医学研究科 医療疫学分野)


 医療のお客様は患者である.さらに,人は必ず病気になる存在とすれば,すべての国民が医療の対象である.医療は特殊ではあるものの,サービスの一種である.顧客のニーズを無視してサービスを提供するわけにはいかない.では,現在そして近未来の医療へのニーズはいかなるものであろうか? 言い古されているようだが,それは超高齢社会という人類が未だ経験していない未曾有の状況であり,わが国が世界に先駆けてこれを迎えようとしていることから生じる新しいニーズである.どの病院の患者も大半が75歳以上であり,地域住民全体でも現在15%で,この割合は確実に,そして急速に増えていく.

 ニーズの変化は新しいゴールを必要とする.これまでの医療のゴールは「病気をいち早く発見し,これを根治する」という単純なものであった.しかし,超高齢患者の医療のゴールはより複雑である.誰もが人並みの寿命を全うしたいと願っているが,それ以上となると,長生きするよりも認知症や寝たきりにならないことにより高い優先順位を置く患者のほうが多いかもしれない.一言で言えば,「長寿よりもQOL」に価値を置く患者が増えていると言えよう.

 わが国の内科の診療体制は,このような新しいニーズに応える準備ができているだろうか? 過去30年の先達による努力の結果,臓器別の専門医療体制は見事に構築されたと言ってよい.しかし今,皮肉にも時代のニーズは現在の臓器別専門医療体制を超えるものを必要としている.医療が地域や社会のニーズに対応するサービスであるとすれば,医療は病院内にとどまることなく地域にまでサービスの範囲を広げる必要がある.また,これは内科医の育成,そして医学教育にもかかわるきわめて大きな課題であると言える.実はこの課題はわが国に限ったことではなく,世界の医学アカデミアが真剣に取り組んでいることなのである.詳細は,本特集の座談会や拙著 『医療レジリエンス』(医学書院)をお読みいただきたい.

 ご多分に漏れず,本誌『medicina』も臓器別の特集を長期間にわたって継続してきたが,本特集が,新しい取り組み方を検討する契機となることを期待する.