今月の主題

虚血性心疾患
プライマリケアは内科医が担う

前村浩二(長崎大学大学院循環病態制御内科学)


 虚血性心疾患の検査法や治療法は飛躍的に進歩し,患者の症状や予後の改善に大きく貢献しています.特に急性冠症候群の場合,冠動脈疾患の集中治療が可能な施設に迅速に搬送され,的確な治療を受けた際の救命率は向上しています.しかし,胸痛を訴える患者が最初から専門施設を受診するとは限らず,胸痛患者に対するプライマリケアにはすべての内科医が習熟しておく重要性が叫ばれています.胸痛を訴える患者の多くがかかりつけ医を受診しますが,虚血性心疾患の診療のコツをおさえ,再灌流療法など迅速な対応が必要な場合は,すばやく専門施設に搬送する必要があります.

 また,病院の救急外来には胸痛を訴えて受診する患者が多くいますが,内科医が当直として交代で対応する施設が多いと思います.胸痛患者の救急診療においてはASAPで表される4つの疾患,すなわちA:acute myocardial infarction(急性心筋梗塞),S:spontaneous pneumothorax(自然気胸),A:aortic dissection(大動脈解離),P:pulmonary thromboembolism(肺血栓塞栓症)を常に鑑別疾患に考えて診療にあたるとともに,心窩部痛など胸痛以外の訴えでも心筋梗塞の可能性があることを常に念頭に置く必要があります.

 急性冠症候群の病態が解明されるにつれ,虚血性心疾患の予後の改善のためには冠動脈の狭窄を拡張するのみならず,不安定な粥腫の破綻を防ぐための治療が重要であることがわかってきました.米国では1980~2000年の20年間で冠動脈疾患死が約半分に減少しましたが,その減少には冠動脈疾患発症後の治療の寄与よりもリスクファクター管理の寄与が大きかったことが明らかになっています.リスクファクター管理のうち,コレステロール低下の寄与が24%,血圧管理が20%,禁煙が12%といった結果です.この事実は,虚血性心疾患の予後改善のためには,急性期治療のみならずリスクファクター管理をより厳しく行うことの重要性を示しています.特に最近は強力な脂質低下療法が可能となったため,動脈硬化病変の進行の予防のみでなく,粥腫の退縮も可能となっています.これらの虚血性心疾患の一次予防,二次予防には循環器専門医でなく,まさに内科医全体が主役を担うと考えられます.

 本特集では,虚血性心疾患の初期診療,専門医との連携に一般内科の先生が積極的に参画していただくことをめざし,虚血性心疾患診療の第一線でご活躍の先生方にお願いしました.この特集が,虚血性心疾患の検査法の進歩とその解釈,予防,治療法の最近の動向について理解していただくのみならず,一般内科医と循環器専門医とのよりよい連携の一助となれば幸いです.