今月の主題

腎臓病診療のエッセンス

片渕律子(独立行政法人国立病院機構 福岡東医療センター腎臓内科)


 今回「腎臓病診療のエッセンス」という特集号を組むにあたり,日常診療においてぜひ知っておいていただきたい腎臓病を取り上げ,診断のきっかけ,腎臓専門医への紹介のタイミング,腎臓専門医はこのように治療している,という点を明らかにすることを念頭に置いてまとめてみた.

 本特集の構成であるが,総論の後,糸球体病変を原発性,続発性,遺伝性に分け,第II章~V章で取り上げた.間質,尿細管,血管病変で臨床的に問題になる疾患は急性腎不全の原因となるものが多いため,「診断,治療に急を要する腎臓病」として第Ⅵ章にまとめた.

 糸球体疾患,尿細管間質疾患,血管疾患は,それぞれの治療に反応して軽快,治癒に向かう場合,いったん軽快しても徐々に腎機能が低下する場合,初期治療に反応せず,腎機能障害を残すもの,一気に末期腎不全に至るもの,などさまざまである.第VII章に慢性腎不全と題して保存期腎不全の診療のポイント,さらに慢性腎不全の原因として特に多発性嚢胞腎を取り上げ,その診療上の注意点について述べていただいた.また,現在26万人を超える血液透析患者を診療する機会も増えてきている.したがって,腎臓専門医が行っている血液透析患者の管理のポイントについて,術前術後管理を含めて概説していただいた.なお,移植患者については非常に特殊であるため,また誌面の都合により今回は触れることができなかった.

 なお,2年ほど前から慢性に経過する腎臓病を慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)として大枠でくくり,ご開業の先生方,腎臓専門医以外の勤務医の先生方,あるいは一般の人々にも腎臓病のことを理解していただくためのキャンペーンが繰り広げられて,一定の効果を上げている.一方,CKDという言葉があまりにも広範囲の腎臓病を網羅しているため,それぞれの独立した疾患単位としての腎臓病が埋没してしまうことを危惧する腎臓専門医も少なくない.私もその1人で,今回の特集ではあえてCKDという項目は作らなかった.

 また,腎臓学の魅力の一角をなす水,電解質,酸塩基平衡については別に特集を組む計画があるとのことで,今回は触れていない.この分野に関しては,独自の特集号に期待する.