今月の主題

実践! 糖尿病診療

山守 育雄(名古屋第一赤十字病院内分泌内科)


 近年,世界中で糖尿病が激増し,医療経済上も大きな課題となっている.国際連合は2006年,毎年11月14日を世界糖尿病デーと位置づけ,全世界が糖尿病制圧に向かって努力することを呼びかけた.患者数の増加に伴い,一般医家の外来を受診する糖尿病患者数も年々増加を続けているものと思われる.また,メタボリックシンドロームへの早期対策により,将来の医療費節減につなげることを目指して,今年度から特定健診・特定保健指導が開始されたが,その結果,これまで未診断であったり,未治療であった糖尿病患者の掘り起こしにより,受診者数の大幅な増加も予想されている.重症化予防の観点からは大いに歓迎すべきことではあるが,一方でこれを受け入れる側の医療供給体制の課題も,今後明らかになってこよう.

 こうした糖尿病患者数の増加は,製薬企業にとっては大きなビジネスチャンスであり,事実,糖尿病治療薬の市場規模は急激な拡大をみせている.さらに今後数年のうちには,新しい作用機序による各種新薬の登場も予想されており,今や糖尿病治療薬は百花繚乱の観がある.インスリン製剤にもさまざまな進歩がみられ,ここ数年のうちには治療風景が大きく様変わりしていくことが予想される.

 こうした現状は,糖尿病専門医にとっては病態に応じた適切な薬剤選択の幅が拡がるという点で大変喜ばしいことである一方,糖尿病を専門としない医師にとっては,あまりにも多くの選択肢のなかで,最適な治療のためにどの薬剤をどう選んで,どう使いこなしていけばよいのか,という大きな課題が与えられるということにもなった.ただ混沌のなかに立ちつくす,というわけにもいかず,かといって一見,相反する諸説のなかで,何を基準に自己の診療を築き上げればよいかに思い悩む医師も多いのではないかと思われる.

 本特集では病院,診療所の第一線で活躍している糖尿病専門医の面々を著者に選んで,一般医が目の前の患者をどう治療,管理していけばよいのかを実践的にガイドすることを目標にした.現時点で明らかとなっているエビデンスがどの程度あり,エビデンスの乏しい領域では専門医が何を考えながら治療を組み立てているのか,を読者にわかりやすく示すことをめざした.本特集が糖尿病を専門としない,しかし現実に日々,糖尿病患者と向き合っておられる多くの病院勤務医,診療所医師のニーズに応えるものであることを祈りたい.