今月の主題

内科エマージェンシー2007
鬼門を克服する

田中和豊(済生会福岡総合病院臨床教育部)


敵を知り,己を知れば百戦危うからず

――孫子

 一次から三次救急患者のなかで最も数が多いのが内科系救急患者である。しかし,日本の救急医学は,外傷救急から始った経緯により診療範囲が外傷・熱傷・中毒に偏っていて,一番重要な内科系救急が欠落している。このため,救急医が内因性疾患を診察すると,鑑別診断など考えずに一通りの検査をして,お決まりの「内科コンサルテーション」に終わってしまう。いわゆる「丸投げ診療」である。こういう診療を見た研修医からこう質問されたことがある。「救急医は救急隊や看護師とどう違うのですか?」と。

 一方,日本の救急医療では現在でも一次二次の内科系救急患者は,救急医が診察するのではなく内科医が診察するのが一般的である。ところが,この一次二次の内科系救急患者を内科医が診療すると,自分の専門科以外の病態は全くわからない,あるいは,少し重症な患者は全く手に負えない状態になってしまう。こういう診療を見た研修医からこう言われたことがある。「内科の先生は自分の専門外のことは全くわからない」,「内科の先生は自分の患者の状態が悪くなるとその患者をすぐ人に渡す」と。

 救急医はもっと内科学を勉強すべきであり,内科医はもっと救急医学を勉強すべきである。今回の特集は,後者の内科医が救急医学を勉強するための特集である。しかし,内科系救急領域は多岐にわたり普通に内科研修を受けてきた専門内科医が,今から研修医1年目と同様にして研修をやり直しすべての内科系救急領域をこなせるようになることは不可能である。

 そこで,今回の特集では一般内科医あるいは内科専門医が,内科系救急領域全般を克服するためのいくつかの重要な「鬼門」を示し,それぞれの克服方法について各専門分野の先生に解説いただいた。ご執筆いただいた先生方は,内科,総合診療,救急,麻酔科・集中治療,脳神経外科,整形外科の各専門分野で著名な臨床医ばかりである。

 この特集で,内科の先生方が少しでも救急医療の「鬼門」を克服することができるように手助けできることを願っている。